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東日本大震災情報
学校法人後藤学園
中村昌次理事に聞く

「支えて」感謝され、元気もらう
避難者支援は学園全体で今後も



■何かできることから

 東日本大震災で被災された方の力になりたい。そんな想いは皆さんお持ちでしょう。私達もそうでした。  私達の学園では毎週月曜日に教職員の打ち合わせがありますが、その席で誰からともなく「何かできることはないだろうか」という声が上がったのです。

 もちろん、学内では教職員に対して義援金を募っておりました。それをただ渡すのではなく、心をこめてその価値を2倍にも3倍にもして届けたい。調理、栄養、ファッションの専門学校を設置する後藤学園の底力を発揮するには、今回はやはり「食」の提供がいいだろう。そのような経緯で、避難者に炊き出しを行うことがすんなりと決定しました。

 「何かしたい」という思いが自然に湧きあがってきたのは、このたびの震災が首都圏に住む私達にとっても対岸の火事ではなかったからでしょう。後藤学園の学生で岩手、宮城、福島、茨城県沿岸部に実家のある者が45人いました。幸いにして実家が全壊するなどの深刻な被害を受けた学生はいませんでしたが、それでも新2年生のうち12人が春休みに帰省できなかったのです。

 1人は放射線の避難区域に実家があり、もう1人は建物が1部損壊。他は余震や交通の見通しが立たず、東京に留まることを親御さんが望んだようです。このため春休みも学生寮を閉じることなく、食事も無料で提供しました。日々接する学生達のこうした現実を見て、教職員にも被災地に思いを馳せ、自分達の手で何かしたいという意識が高まったようです。

■顔が見える距離で

 炊き出しを行う場所の選定は少し難航しました。最初は被災地訪問も視野に入れ、福島県と宮城県の被災地にある役場に片っ端から電話を入れました。40か所にもなるでしょうか。ですが電話ではなかなか話が通じません。やはり担当者の方の顔を見て話し合いができる場所がいいということで、東京近郊の避難所に切り替えました。

 現地に迷惑がかからないよう、学校であらかた調理を済ませ、車で運べる場所がよいという理由もあります。それに私達の本分は学生の教育です。新学期が迫っていましたので、炊き出しは教職員が無理なく動ける5月の大型連休前後に設定し、その頃も機能している場所を探しました。こうした条件に合致したのが埼玉県加須市の避難所でした。

 そこからは順調に話が進みました。4月に入ってすぐ、お見舞いがてらにバナナ1600本携えて旧騎西高校にある避難所を訪ねました。応対された双葉町役場の方に、「私どもは調理師を養成する学校であり、衛生面も心配することは無い。安心して任せてほしい」と申し上げたところ、「ぜひお願いしたい」ということで、その場で4月30日の炊き出しが決定しました。

■学生の力も借りて

 炊き出しのメーンはカレーライスです。これは双葉町からの要望ですが、私達もカレーが一番だろうと考えていました。避難所の毎日の食事は差し入れのお弁当で、温かいものを口にする機会が少ないですからね。調理師学校ですから、最初は「プロの作ったカレー」を味わってほしいと調理の責任者はあれこれ考えていたようです。結局、家庭的なカレーに落ち着きました。

 子どもからお年寄りまで暮らす避難所では、みんなの口に合うものが望ましいですし、「家庭のカレーが喜ばれる」という声も聞いていました。震災前の生活を恋しがる人々の気持ちが切なくもありました。ですからあまり凝らずにシンプルなカレーを作りました。その代わりお肉は多めに、野菜もたっぷり。ニンジンは学生がシャトー剥きにしたものを使いました。教職員だけでなく学生の気持ちも入ったカレーです。

 持ち込んだカレーは約1200食。当時の避難者は1219人です。休日で外出する方も多くこの量で十分でした。食材などの経費は教職員の義援金約25万円を充てました。十分すぎる資金でしたので、余ったお金でデザートも供することができました。フルーツたっぷりの杏仁豆腐です。仕込みは前日に教職員20人が総出で行いました。1000食を超える量のため、朝から夕方までかかりました。

■真心の料理に笑顔が

 当日は朝7時半に学園に集合。130キロのお米を炊く担当者6人を残して、20人が先に出発しました。参加したいという職員はたくさんいたのですが、あまり大勢で押しかけても迷惑になりますからね。参加者の中には調理や栄養の先生はもちろん、ファッションの先生や本部の職員もいます。まさに学園一丸となった取り組みです。

 炊き出しを通じて印象に残ったのは、避難者が明るく振舞っておられたことです。内心、疲れ切った表情ではないかと心配していたので、救われる思いでした。こちらが元気をもらったような気もします。「こんな温かいものをありがとう」「(デザートが)冷たくておいしい」という言葉をたくさんいただき、感激しました。

 大勢の避難者が食べ物の温かさや冷たさに喜んでいたのです。日常生活で当たり前のことなのですが、普通の生活ができない避難者には本当に嬉しかったのでしょう。炊き出しをして良かったと心底思いましたね。またデザートがことのほか喜ばれたのは、果物そのものの差し入れはよくあっても、手作りの新鮮なデザートはめったにないということです。意外な事実にも気がつきました。

 「次は蕎麦がいい」「天ぷらうどんが食べたい」などというリクエストもいただきました(笑)。今回の経験を生かし準備万端整えて、5月の下旬くらいにはまたこの地を訪れたいと考えています。

 復興までには長い道のりになると思います。廃校を利用したこの避難所は滞在期限もなく、避難生活は長期化する見通しです。私たちも息の長い支援を着実に続けていきたいと思います。

 今回の炊き出しはあえて教職員だけで実施しましたが、この様子は学校の掲示板などを通じて学生達にも伝えていきます。そして学生達からボランティアの声が上がれば、学業に支障のない範囲で認め、応援していきたいと考えています。

 また教職員の間では、継続的にこの避難所で炊き出しをしようという機運に加えて、夏休み等を利用して被災地を訪ねるプランも持ち上がっています。教職員が率先して自分たちのできることを行う。この姿勢は被災者を励ますという一方で、学生達にもきっと「支えあう」ことの大切さを肌で感じ取ってもらえるものと信じています。(談)




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