logo 作文コンクール
専門学校新聞ニュース
進路指導の課題と実践
専門学校の賢い選び方
専門学校何でも用語事典
職業カタログ
資格カタログ
専門学校カタログ
リンク集
年間購読申し込み
専門学校新聞社プロフィール
 
■学校基本調査
■イベントナビ
■「私のしごと」作文コンクール
 
株式会社専門学校新聞社
〒169-0075
東京都新宿区高田馬場
3-20-11
TEL(03)3364-5721
FAX(03)3360-6738
E-Mail:info@senmon.co.jp
東日本大震災情報
東北3県の会長に聞く(2)

日本の再生は福島の復興から、特区措置など大胆に
社団法人福島県専修学校各種学校連合会 会長 岡部 隆男



 最初にこの場をお借りして、全専各連の皆様に心より御礼申し上げます。組織としてのご支援はもちろん、震災の直後から中込会長はじめとして多くの会員校の方々より、たくさんのお見舞いメールや手紙、救援物資提供の申し出などが寄せられました。それは未曾有の大震災と、その後も連鎖的に続くダメージに打ちひしがれている私達に、立ち直る勇気を与えてくれました。

 あの日のことは、今でも克明に憶えています。私が運営する専修学校では、当日の午後2時から高等課程在校生の進級判定会があり、私も教職員と共に参加していました。滞りなく30分ほどで終わり、皆で休憩しているときに職員室が揺れ始めました。最初は「3年以内に70%の確率で発生」と言われていた宮城県沖地震がついに来たのかと思いましたが、揺れは強まりこそすれ、一向に収まる気配がありません。事務室の火災報知器がけたたましく鳴り響くなか、果てしなく続くかに思えた恐怖の5分間でした。

 ようやく揺れが収まり、上階の様子を確認しようと非常階段に向かったところ、そこの壁の漆喰が剥がれおち、激しく砂塵が舞っていました。それを見て「ただごとではない」と戦慄しました。また当日、郡山市の天気予報は夕方から雨でしたが、地震後すぐに雪が降り出しました。空が黒雲に覆われてたちまち暗くなり、街中が騒然とするなかで吹雪が舞う。思わず「この世の終わりか」と呟いてしまう光景でした。

 地震発生の当日と翌日は学校に残っていた寮生の世話や教職員の帰宅、在校生の安否確認に追われつつ福島県専各連合会の事務局に何度も連絡を入れましたが、ようやく繋がったのは週明けの14日でした。実は、事務局が入居している県の建物は半壊しており、ヘルメット着用で短時間しか入れなかったのです。3階以上は壊滅的な状態でしたが、比較的被害の少ない2階に事務局があったのが不幸中の幸いでした。翌15日から被害状況の調査を開始したものの、状況が全て把握できたのは22日でした。

 これは事務局の業務開始が遅れたことや、大半の会員校が卒業式を終えて学生生徒の安否確認に時間を要したことが理由です。そして福島県の場合はもうひとつ、“原発パニック”も挙げられます。福島第一原発の水素爆発が伝えられ、20キロの避難指示がすぐに30キロに変更されるなど状況が刻々と悪化するなか、浜通り(県東部)にある学校は大混乱に陥っていました。余談ですが、米軍の家族に対する避難指示は原発事故の直後から「80キロ」でした。そうした伝聞も混乱に拍車をかけました。

 幸いにして3月23日時点で会員校の人的被害はありませんでしたが、物損被害は多数ありました。校舎は一部損壊が29校で、被害総額が億単位に上る学校も2校ありました。休校を余儀なくされたのは36校です。

“五重苦”を受けた福島

 今回の震災により、福島県は「五重のダメージ」を受けました。地震、津波、原発、風評被害、そして今なお続く余震です。このうち原発と風評被害は他の被災県より遥かに深刻で、復興の大きな障壁になっています。例えば沿岸部の復旧がまったくと言っていいほど進んでいないのは、放射能の問題がありほとんどの工事が手つかず状態にあるからです。福島専各連合会の会員校も6割が復旧工事を終えましたが、残りの4割は現在進行中または未着手です。

 またご承知の通り、県外に避難した人々も多数に上り、福島県では6万人を超え、他県と比べて突出しております。また原発事故の影響で、他の県と違って戻りが期待できない状況であり、事実、県北や県中央の会員校では、避難した学生生徒28名のうち、85%が戻っておりません。

 そしてこの状況は学生募集にも影響し、平成24年度は会員校の5割が昨年度より応募者減という事態に至りました。特に県外から学生生徒を多く受け入れている学校は、前年より半減したところもあります。かといって地元生中心の学校が安泰なわけではなく、こちらも3割ほどの減少です。とりわけ専門学校、大学等の高等教育機関が苦戦しています。それまでは子どもを地元の学校に進学させていた親御さんが、県外進学を勧める傾向があるからで、特に女子学生が顕著です。地元の新聞に「私は結婚できるのか、子どもが産めるのか」という女子学生の悲痛な叫びが掲載されたこともありました。それが風評被害なのか残酷な未来の現実なのか、大臣が収束宣言を出したはずなのに、現在も毎時相当量の放射線が漏れているという事実が、今も私達を脅かしています。収束などとんでもないというのが私の偽らざる実感です。

 会員校に実施したアンケートでも「国や県の対応に満足していない」と答えた学校が半数に上りました。

福島へ復興を担う若者を

 しかし、こうした現実に悲観するばかりでなく、私達は復旧・復興に向けて歩を進めなければなりません。福島専各連合会としてはまず、3月31日付で「被災学校および学生生徒への支援に対する要望書」を福島県知事及び県議会議長に提出しました。これは被災者の物心両面にわたる支援のお願いです。また平成23年8月までの損害については、会員校の3割が原発災害損害賠償を請求済みです。ただ9月以降の賠償は長期化が懸念されています。

 そして今、私達が最も力を入れているのが、復旧・復興を担う人材の育成です。震災前から福島県では就職先が少なく、県外に職を求める傾向が強かったのですが、震災以降、それに一層の拍車がかかりました。復興需要で土木などの有効求人倍率は上昇しましたが、これは短期採用であり長期の雇用には結びつきません。また、これは微妙な問題ですが、福島からの学生を被災のあるなしに関わらず、授業料減免などの好待遇で受け入れる(他県の)学校もあるやに聞いております。新たな街づくりには若者の存在が不可欠ですが、このように若者の流出に歯止めがかからなければ、福島では復旧・復興を担う人材が空洞化してしまいます。

 そうした危機感から私達は、福島県で学び就職し、その復興に貢献したいと志す人には、県外からの入学者も含めて給付型の奨学金を出してもらうよう県や文部科学省にお願いしています。少なくとも卒業後5年間は福島で働くことを条件に奨学金を出すのです。現在、岩手専各連合会の龍澤会長が被災3県を代表して様ざまな陳情を行っていますが、そのひとつに教育訓練の特区を設けるという案があります。その特区に福島の場合は給付型の奨学金をセットにして、広く学生を募りたいと希望しています。現在まだ県のほうは除染対策で手一杯ですが、実現に向けて粘り強くお願いしようと決意しています。

 そうなると受け皿として雇用の創出が求められます。特に福島は原発問題がありますから、グリーン・ニューディールなどのドラスティックな政策を採っていただきたい。すでに県では“脱原発”を宣言していますが、太陽光や風力発電など再生可能な代替エネルギーを着実に構築するには、誘致する関連企業に法人税を課さないといった「被災地特区」を大胆に実施することが肝要です。そして“日本の中東”と呼ばれた福島県沿岸部が原子力ではなく、再生可能エネルギーの一大集積地として生まれ変われば、そこに夢を抱く若者も集まるでしょう。

 文部科学省や県では、東日本大震災からの復旧・復興を担う専門人材育成支援事業や、被災私立専修学校等復興支援事業補助金など、様ざまな支援策を講じています。プログラム構築も結構ですが、そこで学ぶ対象者そのものにも目を向けてほしいと思います。福島で学びたい、働きたいと思う若者をまず増やしてこそ、こうした支援策が有効活用できると考えています。

 そしてそのような若者を育てるのは、職業教育を担う専修学校の使命です。震災から得た教訓は数多くありますが、今後は救命対策に力を入れ、人口呼吸や心臓マッサージ、AEDの扱い等を、会員校の教職員の3分の1が習得することを目標に取り組んでいます。

 野田総理が「福島の再生なくして日本の再生なし」とおっしゃったように、福島の現状は世界に知れ渡り、その行方が注視されています。福島から“元気”を発信することが復興の象徴となる。そう信じて明日を担う若者の育成に邁進する私達に、全専各連をはじめとする関係者の皆様に引き続き特段のご高配をお願いいたします。(平成24年2月29日、東京で取材)


[東日本大震災情報]のページの目次に戻る