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東日本大震災情報
新宿調理師専門学校 上神田校長に聞く

料理を介して被災者に寄り添う


◆生きた「授業」に

 昨年の7月、気仙沼市の避難所で炊き出しを行い、その帰路、かつて本校の教員をしていた方が暮らす仮設住宅にも足を運びました。この時は、学生を連れて仰々しく訪ねるのはどうかと思い、教職員だけで行きました。被災地の惨状を目の当たりにして、我々教職員も深く感じるところがありました。その感慨を一言でいうと、「今の自分達がどれだけありがたい暮らしをしているか」ということです。

 その思いを学生にも共有させたい。特に今の子どもは、他に比較するものがなく、現在の満たされた生活を当然と思っています。失礼な言い方かもしれませんが、むしろ被災地を「訪ねさせて」頂いて、瓦礫の山が今も残る被災地や、仮設住宅の不便さを実際に目にすることで、学生に今の自分達の暮らしに対する感謝の気持ちを学んでほしい。「百聞は一見に如かず」です。

 いわば、一つの「教材」のようなものとして、今回の訪問を実施したのです。そうして相手の立場や気持ちを思いやる経験をすることは、料理人を目指す上で大きな糧になるはずです。

 さらに幸運だったのは、目的地がはっきりしていることでした。前回は本校の副理事長の身内がおられる避難所、今回は元教員の方が暮らす女川町の仮設住宅。「誰かのために」という「誰か」の姿がある程度明確になることで、善意を押しつける恐れもなくなりますし、気持ちも込められるものなのです。

 私達が訪れることは、事前に元教員のご主人から、仮設住宅の自治会長に話を通してもらいました。自治会長は快く了承してくれ、私達が訪問する旨を記した手紙を各世帯に事前に配布してくれたり、当日はハンドマイクで到着したことを知らせてくれたりと、いろいろと協力してくれました。ありがたいことです。

◆手から手へ

 被災地を訪れた学生は22名、教職員21名、総勢43名の人員で、「届けましょう!ささやかな優しさを…、忘れません!皆さんの頑張りと笑顔を…。」が合言葉です。

 各クラスから2名ずつ参加者を募りました。本校の学生ほぼ全員が参加を希望しましたので、人選はクラス担任に任せました。基本的にはクラス委員男女1人ずつという形になりました。

 ただしすべての学生が何らかの形で参加することが大切だと考えましたので、お持ちする料理を作る作業は分担して、各クラスの授業の中に組み込み、少しずつ作っていきました。完成したものは真空パックにして冷凍保存します。学生全員を連れてはいけないけれど、皆の思いは込められている。

 料理を詰めるパッケージに「手から手へ」と記したのも、そうした思いの表れです。これはフランスの職人がよく使う言葉で、「手づくりのものを大切に使ってくれる人の手に渡したい」という意味があります。私達も教育者として、保護者の方から預かった大切なお子さんを、しっかり教育して、さらに育ててくれる企業(就職先)の手に渡すことを使命としており、この言葉は校是のようなものですね。

 出発当日は、学生が最後のチェックや搬入作業に追われる間、教職員は学生のために夜食のおにぎりを作りました。そしてバスに揺られ8時間かけて石巻市に到着。朝靄の中で見た被災地は、去年ほど殺伐とした雰囲気は感じられませんでしたが、初めて訪れた学生にとっては衝撃だったようです。

 まずはテレビのドキュメンタリーで取り上げられた石巻工業高校のグラウンドに降り立ち、その空気を肌で感じました。

◆孫に接するように

 女川総合体育館の仮設住宅に着いたのは朝の8時。集会所になっている公民館を借りて箱詰め作業を行いました。その後、1組3人のグループに分かれて、各世帯にお土産料理を配りましたが、一連の作業は全て学生に任せました。今回は学生が主役ですから。ただ、全校を代表して来た者として、礼儀をわきまえ挨拶をきちんとするように、とだけ指導しました。学生はしっかりと期待に応えてくれました。

 当日は小雨模様で、また午前中の早い時間であり、なおかつ事前の通知が行き届いていたこともあって、165世帯中152世帯の方が在宅しておられました。ありがたいことにとても温かく迎えてもらったようです。

 年配の方が多いせいか、孫に接するように話を聞いてくれたり、じっくりと学生を相手に話し込む方もおられました。前回の避難所訪問の時と比べて被災者にも心のゆとりが見られ、この時期に学生を連れて訪問したのは正解だと感じました。帰りには仮設住宅の近くで行われていた復興イベントに参加したり、被害に遭った港や更地になった住宅、工場跡などを見て回り、被災地訪問を終えました。

 わずか1日の体験でしたが、学生はそれぞれに何かを感じてくれたようで、それだけで今回の被災地訪問は意義があったと思っています。被災地の人に対しては本当にささやかな行為で申し訳ないほどですが、笑顔で料理を受け取ってくれた姿は、逆に私達を励ましてくれました。

 これからも被災地支援だけに留まらず、本校のある新宿区の福祉施設や老人施設などの慰問を積極的に行おうと考えています。料理を介したボランティアを通じて学ぶことは、本物の料理人になるのに欠かせない心構えを育むと信じています。


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