広島県立油木高等学校3年

入 江 良 介
 

「めざせ!日本一の畜産農家」
 
 私の父は広島牛認定店である精肉店を営んでいます。広島牛ブランドと認められるものは、広島県で生まれ、肥育された黒毛和種であることはもちろん、何より、肉質が最高級でなければなりません。肉質は肉・脂肪の色調・脂肪交雑いわゆる“さし”の入り具合によってA5を最高にC1まで15段階に格付けされます。広島牛ブランドの認定を受けるものは最高級といわれるA5・A4に限定されています。父は、広島牛の認定を受けた牛肉をお客さんが食べやすい大きさに切り、販売しています。

 父はいいものを1回みんなに食べてほしいと口癖のように言います。いいものは確かに高いが、そのおいしさは格別のもの、広島牛は日本一おいしい牛肉だと自負しています。そんな父の姿を見て育った私は、広島牛を育てたいという夢を持ち、農業高校である油木高校に進学しました。

 しかし、周りの目は冷たいものでした。土地もないのに農業はできないよというように、いくら牛を飼いたい、育てたいと言ったところで、私の家には農地も山林もありません。

 そんなとき、牛の放牧による飼育方法を学習する機会がありました。牛本来が持つ力、草を食べ、体を作るという力を活かした飼育方法です。現代の牛の飼育方法は輸入飼料に頼りきり、狭い牛舎に押し込め、生産性のみを追求しています。生活環境の悪い状態での飼育は牛の健康を損ね、薬の投与の増加など悪循環を起こしています。それに比べ、放牧による飼育は牛を健康にさせ、繁殖力の向上、足腰を強くし出産事故を軽減させるなどいいことずくめです。

 私はこれだと思いました。私の住む神石高原町は、山に囲まれ、平地が少なく、65歳以上の人口は45%を超える高齢化、耕作放棄地は350ヘクタールにものぼり、他の市町村に比べてずば抜けて多く、全国第1位です。厳しい現状ですが、その現状を逆手に取り、山林や耕作放棄地に牛を放牧し、輸入飼料に頼っている現在の飼育方法を打破したいと考えました。飼料代の軽減、管理労力の軽減を図り、純利益を上げる繁殖牛の飼育方法です。

 この飼育方法を、地域の方との懇談会で話したところ、農地の管理に困っている方から3ヘクタールの山林・耕作放棄地を実験区として貸し出していただけることになりました。

 昨年の冬から、廃材を利用し、杭を打ち、有刺鉄線で囲みました。寒い中の作業はつらいものでしたが、牛ののびのびした放牧風景を思い浮かべながら頑張りました。牛を放牧して危険はないか何度も見回り、何かあったときは、牛舎に戻ってくるように餌の前に鐘を鳴らし、鐘に反応するように調教を行いました。

 そして、5月上旬、初めて山に放牧しました。牛は初めての環境に戸惑っているようでしたが、草の誘惑には勝てず、草をもりもり食べ始めました。放牧前後に体重を量ることと、追跡調査による糞尿調査も行い、飼料が足りているか検証することにしました。その結果、約20キログラムの草を食べており、飼料は十分に足りていることがわかりました。

 この飼育方法を活用すれば、神石高原町は、山林・耕作放棄地に困っている過疎化の町ではなく、資源の宝庫に生まれ変わることができるのです。

 土地がなければ農業はできない、という考え方は今やあてはまりません。今後ますます高齢化が進み、手入れのできない山林や耕作放棄地が増えていきます。農地や山林を持っていない私のような者でも、農地の管理に困っている方から土地を無償で借用でき、農業の新規参入が図ることができるのです。

 さらに、牛が食べてきれいにしてくれた耕作放棄地に飼料作物を植え、濃厚飼料も栽培し、繁殖・肥育一貫飼育を行い、日本一安全でおいしい広島牛を作ることができます。牛を飼いたいという私の夢は、十分実現可能な夢なのです。

 私は、神石高原町の資源を有効活用した広島牛の飼育を行い、父に喜んで買ってもらえるような畜産農家になりたいです。


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