山口理容美容専修学校1年

伊 藤 亜紀子
 

「やっと見つけた私の道!」
 
 高齢化社会を迎えた日本社会。一体何人の人が自分の人生に生きがいや目標を見つけ実現できているのでしょうか?

 私には今年80歳を迎えた祖母がいます。祖父が亡くなってから、一気に物忘れがひどくなり、最近では衣服を着替えることさえも忘れるようになりました。認知症です。

 そんな祖母が、ある日、きらきらとした満面の笑顔を浮かべていたのです。「どうしたの」と尋ねたら、「綺麗にしてもらえたんよ、えかろう?80のばあ様には見えんよ、女優デビューでもしてみるかねっていわれたっちゃ。気持ちえぇよ、あんたらもやってもらい?えっと、今度はいつあるんかいね?」と、しきりに自分の顔を私たちに触らせながら、日頃見ることも忘れていたカレンダーを思い出したかのようにチェックしていました。それはデイサービス事業のカットと顔剃りサービスを利用したからだったのです。

 久しぶりに見た楽しげな祖母の笑顔が伝染したように、その日一日、家の中が笑顔で満ちていました。

 綺麗でありたいという思いは、年齢ではなく、たとえ病気になって他の事を忘れたりできなくなってしまっていても変わらないということを、あの日の祖母の笑顔が教えてくれました。

 私は以前市役所の高齢福祉課に勤めていました。その時に、「高齢者の、髪を整えることやフェイシャルエステがサービスの中にもっとあればいいのに」という声を幾度か耳にしました。その声と祖母の姿が重なり、もっと違う私が進むべき道があるのではないかと考え始めました。

 それまでの私は、いわゆる「学歴一番」の人間でした。ひたすら勉強し進学高校に入り、国立大学を卒業しました。しかし、欲しかった学歴を手にしたその先には何の目標もなく、「私は何をしているの?」と、迷う暗い毎日を送っていたのです。

 年をとらない人はいません。医療技術の進歩は、私たちに長い人生を与えてくれました。それは喜ぶべきことです。自分の力で人生を楽しむことができる人は、とても有意義な時間が過ごせるでしょう。しかし、高齢者の多くは、長年使い込んできた身体の多くに故障を抱えておられます。認知症もその一つです。その症状の進行を遅らせる効果が考えられるものに、「生きがい」や「楽しむ」ということによる刺激があるそうです。

 「綺麗にしてもらえる」という喜びや楽しみをもっと感じてもらいたい。「その職業が理容師なんだ」。理容の分野こそが高齢社会に小さな生きがいを与えてあげられるのではないかと思い、理容の道に進むことを決意したのです。

 しかし大きな夢を抱き理容学校に入学したものの、実際何を努力したらそうなれるのかが分からないという壁にぶち当たりました。そのとき組合のポスターで、ホームヘルパー2級の取得講習やケア理容師養成など、福祉の分野に向けた道が拓かれているのを知り、「これだ!」と思わずガッツポーズをしていました。

 人は誰もが「美しくなりたい」、その本能を満たしてあげられる「理容師!」、やっと見つけた私の道!

 お年寄りや身体の不自由な方へも『小さな生きがい』をいっぱいいっぱい与えてあげられるプロの理容師、それが『私の生きがい!』。その目標に向かって毎日を頑張っていきたいと思います。


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