岩手県立花北青雲高等学校1年

畠 山 正 徳
 

「大きな夢を持つ父を見て」
 
 私が理想とする人は、農業をしている私の父です。私の家は、祖父の代にたった3頭から肉牛の肥育を始め、現在は、約130頭もの黒毛和種を有する家畜経営農家です。その牛、1頭1頭と向き合いがんばっているのが、父です。

 なぜ、私が理想とするかというと、動物への愛情、人への愛情がとてもすばらしいからです。毎日、朝5時に起きて、牛を1頭ずつ見て回ります。具合が悪い牛はいないか、時間をかけて見ます。私の母や祖母も手伝っています。夜には、私や兄も手伝います。季節によっては夜11時過ぎまで働くこともあります。

 365日、1日も休まずに頑張る父の姿を見て育ってきた私は、愛情ということについて、深く考えることができるようになりました。私の父はよくこう言います。「愛情をかけた分、その牛は恩返しをしてくれる」。

 小さい頃はよく意味が分かりませんでしたが、今になりその意味が分かるようになりました。私は、父に連れられて牛のと殺場に行ったことがありました。うなっている牛の声がしたので見に行くと、あまりにも悲惨なものでした。

 ハンマーで牛の額を叩いて気絶させ、足からつるし、首を切り落とします。大量の血が流れて皮をはいで、内臓を取り出し肉だけにしていきます。

 何も言えずにただただ立っている私に、父は、「こうやって殺されていくのだぞ。この命をもらって、うちら家族は暮らしているのだ」と言いました。

 それから、私の考えは少しずつ変わり、「最後まで責任を持って育てる」「嫌な思いをさせないように努力する」「最後は笑顔で見送りたい」と思うようになりました。ですが、一生懸命育てた自分の牛が出荷になると、自然に涙が流れて笑顔で送る事ができませんでした。そんな時も父は声をかけてくれます。

 「自分が満足できるぐらいがんばって、育てたらそれでいいのだ」。

 いつも、一言しか言いませんが、その父の言葉に私は支えられています。

 私の父は今、たくさんのことに挑戦しています。私の父が中心となって活動している「しわ牛研究会」。その研究会が1番力を入れているのは、牛の肉質を変え甘みを増やすことです。地域で取れた粗飼料と、紫波町が誇る生産日本一のヒメノモチの粉砕、黄熟期前の栄養の高い稲をそのまま刈り取り、乳酸菌を入れて醗酵させたホールクロップサイレージを、母牛と肥育牛に与えることにより高い等級かつ評価を上げています。

 このように飼育した牛を「しわもちもち牛」とブランド化し、全国に「安心・安全な牛肉」というイメージを消費者の方々に広げることにも力を入れています。それとともに牛から排出された糞尿を堆肥化し、農地に戻すことで資源循環型農業を実践しています。

 つまり、環境問題も少しずつではありますが取り組んでいると思います。

 そんな父を見て私はたくさんの知識を得ることができました。人が1人で生きていくことは不可能です。家族や友達、地域や社会の人々。それらをとりまく自然も含め、たくさんのものに支えられているはずです。それらを当たり前と思わずに、感謝の気持ちを持つことが大切だと思います。そうすることにより、自然に父や私が思う愛情につながっていくはずです。

 将来は、家族で協力し父・兄を中心とし、大規模一環経営農家を作り上げたいと考えています。


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