山形女子専門学校高等課程3年

有 沢 千 温
 

「自分からの脱出」
 
 人前で話すことは大の苦手。いくら人が大丈夫と言っても、ゆっくりでいいと言っても言葉に詰まる。こんな私が学園祭のファッションショーのトップバッターとしてステージに立つなんて誰が想像しただろう。中学の同級生が見たら「あれ、誰?まさか」なんて言うかもしれない。でも、私は今年舞台に立った。恥ずかしさ、こわさの中に、自分で作った服に対する誇りを持って。

 小さい時から私は折り紙や小物作りをよくした。でもそれは好きというより他の遊びが苦手だからという消極的なものだった。作る楽しさを知ったのは小学校5年時のナップザック作りだ。家庭科の時間、皆でキルティングされた布セットを選び、先生の説明の後一斉に作り始めた。私が選んだのは大好きな緑色。布がちょっと厚くて縫い始めが大変だったけれどミシンはスムーズに動いた。

 担任の男の先生は、丁寧に分かりやすく教えてくれた。私は他の人より早めに出来たので、刺繍で小さく自分の名前も入れてみた。仕上がりを見るとかなりいい。先生が認めてくれた上に、家では母がほめてくれた。自分で納得のいったものが認められる喜びを、私はこの時実感したと思う。

 かといって強い思い入れを持って学校を選んだわけではない。洋裁が好きというのはあったが、「入れるところだったから」というのが本音だ。でも、エプロン・クッション・ブラウス・コート…。たくさんの物を作ってきて、色々な講義を受けて、私は確実に変わったと思う。まずファスナー付け、ギャザーよせ、ポケット付けなどたくさんの技術を覚えた。

 人前でポーズをとるのは、恥ずかしくて、去年のショーは、いやで本気で休んでしまいたかった。でも今年はその中に私のデザインを見せたい気持ちが加わった。私の衣装にアドバイスをくれ、手伝ってくれた友達の存在が嬉しかった。

 普段は着ない色づかい。黒のシャツ、紫のネクタイ、黒のパンツでコーディネートされ、鏡の前に立った私は凛とした強さを持っていた。自分に自信が湧いてきた。テーマ『天使と悪魔』の悪魔役。ちょっと別人になるようで心地よかった。だんだん舞台に立ちたいというきもちが湧いてきた。そこには顎を挙げ、胸を張る、いつもと違う私がいた。「洋服は着る人に力を与える」そんなことを実感した瞬間だった。

 この一年は、作る楽しみ、着る楽しみに加え、思いもしなかった主張・自分を解放する快感を体験できたと思う。私の夢だった、おとなしい私からの脱出だ。ショーを離れた日常でもTシャツから、小物で変化がつけられるシャツブラウスに服装の幅が広がった。

 今、未知の私に期待できるのが嬉しい。この楽しさを周囲の人たちにも伝えていけたらいい。「洋服は人に力を与える」。洋裁に関わりながらも、この体験を人にアドバイスできたらいい。そんな仕事に就けたらと思う。

 この一年また新しい私を見つけられるといいなあと思っている。


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