早稲田大学高等学院(東京都) 3年

原   千 広
 

「私の夢」
 
 また、人が殺された。また、物が盗まれた。どこかで誰かが傷付いた。いったい、いつになったらこんなことがなくなるのだろう。こんなに悲しい事件が、新聞の一面を飾らなくなるのだろう。テレビをつけても、そのニュースが流れなくなるのだろう。

 本当はもっと、もっと素敵なこと、例えばどこかで誰かが活躍したとか、そんなことが新聞を、ニュースを彩るべきなのに。

 私は、こんな今の世の中が嫌だ。犯罪者に傷付けられるのは、たいてい誠実な人たちなのだ。無差別殺人。この一年で、何度この手のニュースを見たことだろう。そして、犯罪は繰り返される。誰かが止めていかなければならない。そして私は、その「誰か」になろうと思った。

 検察官。私はその職業に長い間憧れを抱いてきた。ある種の使命感とともに。法で悪を裁き、正義を貫く、まさに私の求めていた、本当にやりたいことであった。検察官は刑事事件において、捜査権から、起訴不起訴の裁量的判断をする権利、また裁判にも関わることができ、警察や裁判官と比べ、広くその権限を行使でき、自らの正義を貫くことができる。だからこそ、大きな責任も生じる。少しの間違いで、他人の人生を台なしにしてしまうかもしれないのだ。そんなことがないように、様々なことを勉強し、広い目で世の中を見つめ、様々な人の考えを知り、真実を知る能力を身につけなければならない。

 その能力が問われるものとして、司法試験がある。司法改革で、新司法試験が実施され、旧試験は廃止される予定だ。新試験はロースクール卒業を基準とするが、旧試験は広くその門戸が開放されており、その一次試験は誰でも受験できる。私は夢に近づくために、2007年1月、旧司法試験第一次試験を受けた。合格するために半年かけて勉強したのだが、結果は不合格。しかし、翌年また勉強しなおし、合格できた。とはいえ、旧試験は二次試験が難関と呼ばれるものなので、ここからがスタートラインだ。2008年5月、私は続く二次試験を受験した。結果は不合格だったのだが、私はそれでよかったと思っている。なぜなら、しっかりと法律のことを理解していなかったからだ。私は今年、猛勉強して、また来年受け直す予定だ。もちろん、合格するだけがすべてだとは思ってはいない。私が見つめているのは、その先だ。試験のはなし、法律のはなし、裁判のはなしになると、しばしば忘れてしまうことがある。被害者の声、事件の真実だ。何のために検察官になりたかったのか。毎日の忙しさの中で忘れてしまいそうで、本当は決して忘れてはならないこと。私はそれを忘れないようにしたい。

 私は、他のみんながそうであるように、人の笑顔を見るのが好きだ。悲しむ姿を見るのが嫌いだ。人の幸せは、ふとしたことで崩れ去り、取り戻すのに時間がかかる。だからこそ私は、その幸せを奪ってゆく人を、許すことができないのだ。

 私の夢は、正しいことを正しいと言える、間違ったことを、間違いだとはっきりと言える人間になり、この国に、笑顔を増やしていくこと、失われそうな笑顔を守ること。その夢をかなえるために、私は検察官になりたい。そのためには、「正義」とは何なのかをしっかりと理解しなければならない。それを、私は今、必死でさがしているところだ。


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