大竹高等専修学校(東京都) 2年

岩 澤  和 美
 

「姉が教えてくれたこと」
 
 一生懸命に頑張っていても、バイトへの信頼は薄いもの。信頼されていないことに気づいてしまう辛さ。その辛さの中で、必死に仕事を続けるその悲壮な姿は、私達が軽々しく口にする「フリーター」という甘い響きから、決して連想できるものではない。

 私の姉は、今、フリーターをしている。いつも唇をかみしめてバイトに行く姿を、私は直視することが出来ない。どうして、こうなってしまったのか。少しさかのぼって話をしなければならないだろう。姉が学校を辞めたのは高校1年生の時だった。理由は特になかったと思う。学校がつまらなかったとか、そういった類のものだ。学校を辞めた姉は、当時、それこそ「たくさんバイトが出来る」と家でも喜んでいた。しかし、何ヶ月か経ち、私は姉が家に居ることが多くなったことがふと気になった。私は、「最近、あんまりバイトやってないの?」と聞いたが、何も答えてくれない。いったい、どうしたのだろうか。それからというもの、姉は外に出ることが少なくなり、ある日を境に、姉は一切家から出なくなった。

 姉は「アルバイトに行くことが辛くなった」と呟いた。そのきっかけは、ある日、耳にしたこんな噂だった。「金庫のお金を盗んだ。」

とんでもない。姉は弁解した。しかし、その噂は日に日に広まるばかり。こんなにいつも頑張っているのに。こんなに一生懸命働いてきたのに。やるせない気持ちになり、大いに泣いた。そこで気がついたそうだ。「信頼されていなかったのだ。」ということに。

 今でこそ、姉はまたアルバイトを始めたが、そこに至るまでには家族の支えと本人の努力があった。「今も仕事先で社員のミスを押しつけられたりもするよ。でも、アルバイトは信頼されない。当然だ。という気持ちを持たないとね。決して慣れたわけじゃない。辛いし、泣きたくなる。」そう語る姉は、そう思わなければまた家から一歩も出られない生活になってしまうことを知っているようだ。今、姉は唇をかみしめて、アルバイトに向かう。そして、時に呟く。学校を続け、正社員として採用されたかったと。完全に自信を奪われ、失った姉は、新たに就職活動を行う気になれないようだ。

 学歴によって、簡単に扱いが変わってしまう。次々と高校を中退していく中学校時代の同級生達は、アルバイトを続けているだけでは、社会において信頼を欠くことになるとは、想像していないに違いない。恐ろしいことだ。目の前にぶら下がる楽しそうなアルバイトのポスターがいけないのだろうか。あれが、皆を騙すのだろうか。とすれば、彼らがいけないのではない。社会のシステムが、ニート・フリーターを生み出しているのではないか。資本主義という言葉を習ったのは昔のことだが、今、その本当の姿が、見えてきたような気がする。

 私は、ニート・フリーターでいることの怖さを目の前で見た。それに、私が通っている学校ではそのことについて教えてくれる。だから、「ニート・フリーターではなく、正社員を目指そう」と感じることが出来ているのだろう。しかし、学校の情報よりも周りからの誘惑が多すぎて、他の人たちは混乱している。私は、何とかこの連鎖を防ぐ方法を見つけたい。一人でも多くの人に気が付いてもらいたい。履歴書の空白部分は、広がれば広がるほど、取り返しがつかないのだ。就職が難しくなる。ニート・フリーターはその後まで大きく傷を残す。人から自信を根こそぎ奪い取るのだということを。


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