愛知県立岩倉総合高等学校 3年

森   優 子
 

「私のあこがれ」
 
 ふわっと漂う、焼き立てのパンのにおい。私の大好きなにおい、場所。そこで働くのが私の理想とする職業人である父である。

 私の父は自称パン創作家。母とパートのおばさんと共に、小さなパン屋を経営している42歳だ。朝4時半、まだ家族みんなが眠る頃、父は店へと向かう。そしてたった一人でパンをつくりはじめる。8時になると、母とパートの方も加わり、開店時間に向け準備を進めていく。お昼ごろまでは、ひたすらパンづくり。そして一段落つくと、翌日のための仕込み、掃除、店番。片付けをして帰ってくるのはいつも8時過ぎだ。

 朝から晩まで、とても大変だと思う。ずっと立ちっぱなしであるし、パンづくりは重労働である。でも父は、ぐちもこぼさず、毎日一生懸命働いている。

 ところが、店がオープンして8年目、常連さんもついてきた今年4月、一緒に働く母が悪性腫瘍の治療のため、入院することとなった。期間は3ヶ月を超える見込み。店の存続の危機が現れた。私は、父は店をたたむと思った。母がいなくては仕事の量はうんと増え、やっていけないと思ったからだ。

 しかし父の決断は違った。やれる限り、店を続けていくことにしたのだ。私はある人に「店を閉めるのは簡単。でも店を続けるのは大変なんだよ。」と言われた。その通りだとおもった。それに母は、「せっかく築いてきたお客様とのつながりを、ここで終わりにしたくない。」と言っていた。父の決断は正しいと思った。店をたたむのではと思った自分がとても恥ずかしくなった。それと同時に、父を応援していこうと思った。

 私は毎週土曜日、店の手伝いに行っている。母が入院する前は、母の手伝いという感じであった。でも今は、一人で接客しなければならないし、自分で考えて仕事をしなければいけない。すごく難しいし疲れる。でもそれ以上に充実感がもてる。お客様が、「この前買ったあのパン、とてもおいしかったよ。」などと言ってもらえると、すごく誇らしげな気分になり、嬉しく思う。また、「お母さんどう?頑張ってね。」と言われると、母がたくさんの人に慕われていることを実感する。母がいない間、私が頑張らねばと思わせてくれる。

 ある日お客様に、「お姉ちゃん笑顔がいいね。その笑顔でみんなが救われるんだよ。」と言われた。すごく嬉しく、そして、笑顔の大切さを強く実感した。

 母がいない分、父と話す機会が多くなった。お昼ご飯を食べながら、パンを丸めながら、色々な話をする。学校のこと、家族のこと、そして将来のこと。また父はたまに、自分のパン創作家としての思いを話してくれる。

 『やっぱり、お客さんがおいしいって言ってくれることが嬉しいよね。』
 『お金をたくさん稼ぐだけが商売じゃないと思うんだよね。』

 父の自分の店に対する思い、働くということに対する思い。父の生き方を直に聞くことができる。いつもは冗談ばかり言っている父がかっこ良く見え、尊敬できる瞬間だ。

 ただ単に売り上げだけ考えるのではなく、お客様の側に立った商売。お客様の声がそのまま届く、父との距離。なによりも父は楽しんでこの仕事をしている。そんな父は生き生きしていて、キラキラしている。

 私は高校を卒業したら就職しようと思っている。父の店ではなく、事務職に就こうと思っているが、一つ、忘れないでおきたいことがある。それは、『楽しく』仕事をするということである。どんな仕事でも、大変であり、嫌な所もあるだろう。でもだからこそ楽しく思わなければならないと思う。

 父のようにキラキラ輝けるよう、笑顔をたやさず、自分の仕事に誇りをもって働きたい。

 私の理想とする職業人。私のあこがれである父。いつまでもその背中を見ながら、そしていつかは肩を並べることが、私の目標だ。


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