東京都立富士森高等学校 3年

加 藤  ち ほ
 

「先天性異常を乗り越えて」
 
 私の将来の夢は歯科衛生士になることだ。何故かと聞かれたら、自分自身を知るためだからと答える。

 私は先天性異常の一つである口唇口蓋裂というものに罹(かか)っている。口唇口蓋裂とは字の通り、出生する時に上顎から鼻が裂けたままの状態で生まれてきてしまうもので、日本人児童の約五百人に一人の割合で罹る。このため生まれてすぐの入院や手術、数えきれないほどの通院を経験している。

 上顎が裂けていたため歯が思うように生えてこない。その治療の一環として、2歳から17歳の今日に至るまで同じ矯正歯科に通っている。それが私の生活の一部であり、当たり前の出来事なのである。

 小学校に入学したころ、手術後のキズ跡を日の光に当てない様に、茶色いテープを鼻の下に張っていた。それを見た友達に、「鼻水が出ているみたいに見えるよ。」と言われたことがある。それも1人だけでなく何人もの子に。

 子供なんて思ったことを素直に発言してしまうので、その言葉に悪意が無いことはわかっていた。しかし悪意が無いにしても、鼻水が出ていると言われて喜ぶ人はいない。それから少しだけ口蓋裂のことを気にするようになった。

 記憶に新しい治療では歯を移植したり、まだ生えていない親知らずを歯茎を切開して砕いたり、決して楽とは言えないものだった。全て自分のための治療だから仕方がないとしても嫌気がさしてしまう。辛い治療が嫌で母にすがりついて泣いたこともある。母や歯科、小児科の先生、歯科衛生士さんに慰められながら頑張って堪えたこともあった。

 ある日、母と2人でアルバム写真を見ていたときのことだ。私たち姉妹や従姉妹たちの幼いころの写真に混じって何枚か他の写真が出てきた。その写真を見ようとしたら、母に心の準備をしてから見るようにと言われた。母に言われた通り一呼吸おいてからその写真を見ると、衝撃が走った。

 まだ1歳になるかならないかの小さな私が病院のベッドの上で横になり、たくさんの医療機器と繋っている写真だった。そしてそのそばに古く黄ばんだ口唇口蓋裂と書かれた一冊の本があり、母の表情は真剣だった。私の入院生活について話し始めた母は涙ぐんでいた気もした。

 「辛いと感じていたのは自分だけではない。」と一瞬にして悟り、これからは治療が嫌だと言ってはならない、そう心に決めた。

 その後私は、自分自身のことについて調べた。この口唇口蓋裂はめずらしくないものであること、私の症状は比較的軽い方であることなど。そうしてどんどん調べていくうちに、もっと自分のことが知りたいと思うようになり、私のような患者を支えることのできる歯科衛生士を目指すことにした。

 口蓋裂のせいでできなかったこともあるが、口蓋裂のおかげでできたこと、得たものもたくさんある。自分自身を知り、患者さんを支えたいという夢も、口蓋裂が無ければそう思わなかったかもしれない。数多くの辛い経験、幸せな経験、そしてかなえたい夢と共に、今私は歯科衛生士になる準備をしているのだ。


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