藍野学院短期大学附属藍野高等学校 1年

大 山  七 海
 

「体験学習での驚き、発見の日々」
 
 「ありがとう。」

 そう書かれた紙と、ベッドの上のおばあさんを見て、この道を選んで良かった、と私は思った。

 私は大阪府の衛生看護科の高校に通っている。ここは、国内でわずか3校しかない衛生看護科のみの高校の中の一つで、私は「看護師になりたい」という夢を抱いて、この学校に来た。

 この学校は、放課後に体験学習という授業の一環で、実際に医療現場に立つ。初めて実際の医療現場に立った時、私は愕然とした。テレビドラマを見ているようなものとは全く違う。「痛い、痛い」と叫ぶ人、「助けてくれ!!」と必死に訴える人…。そんな状況を目の前にした私は、どうしたら良いか分からず、立ち尽くしてしまった。

 初めての体験学習が終わった日の夜、私はあの時にどのような行動をとれば良かったのかを考えた。

 私は、看護師と患者は密接な関係にあると思う。看護師という存在は患者にとって、医者に言いづらい事も伝えやすいし、そう考えれば、看護師とは患者が色々伝えることの出来る唯一の相手ではないのか。そして、それを一つ一つ傾聴することも、看護師の役割ではないのか。

 その役割に気付いた時、初めてだといえ、傾聴することさえも出来なかった自分に、とても悔しさを感じた。そう初めての経験から実感した。

 次の体験学習の時、私は患者一人一人の声を傾聴することに努めた。そうすると又、新しく見えてきたものがあった。患者一人一人には様々な事情がある。例えば、患者の中には治らない病気をもっている人もいる。看護師はそれを意識・理解し考慮して接しなければならない。

 看護とは手でかざして目で見て護るという語議がある通り、患者の身体的な部分以外に精神的な部分も支えることが出来なくてはいけない、大変な道だと思った。

 ある体験学習の日、私は環境整備を行うためにある病室に入った。この病室の中の一番奥には声を出せない患者がいて、いつもその患者のテーブルの上には1本のペンと紙が置いてある。その患者は何かあった時はいつもその紙に書いているのだ。

 私は環境整備を終え、病室を後にしようとした。そうすると、「トントン」と私の手を、その声が出せない患者がたたいた。振り向くと、患者はテーブルの方に指をさしていて、私は環境整備に不具合があったのかと思い、急いでその紙を見た。

 私はその紙を見た瞬間、ジーンと胸が熱くなった。紙には「ありがとう。」と一文だけ書いてあった。普段言われる「ありがとう。」とは何か違う「ありがとう。」。今、私にはまだその違いは分からないが、これだけは分かった。この道を選んだことは間違えていなかった。

 これから私には、本当にたくさんの試練が待っているだろう。時には辛くて逃げ出したくなる時もあるだろう。だが、その先に色々な形の「ありがとう」が待っているのを信じて、今日も私は一生懸命看護の勉強をする。


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