岐阜県立加茂農林高等学校 2年

清 水  公 博
 

「日本庭園に魅せられて 〜私が目指す造園技能士〜」
 
 私には、将来造園業に就きたいという小さい頃からの夢があります。その夢の実現のため、岐阜県立加茂農林高校造園科に入学しました。造園業を目指すきっかけとなったのは、造園業に就いている祖父との約束です。その祖父は母方で、現在岐阜県高山市に住んでいます。私は岐阜県美濃加茂市に住んでいますが、小さい頃からよく遊びに行って仕事を手伝っていました。木を植えたり、池を造ったり、飛石を打ったり、少しだけクレーンの操作もやらせてもらったことがあります。

 土にまみれながらも、一生懸命祖父の仕事を手伝い、美しい庭、風景を自分の手で造っていける、ということに私は感動し、幼心にも「庭造りは楽しい」と感じました。そして「自分が土にまみれたり、汚れたりすることを嫌っていては、とても人を感動させる庭を造ることはできない。自分は多少汚れるくらいかまわん、そんなことより自分の求める美しい庭を造ってみたい」と強く思うようになりました。

 「一生懸命に造った庭こそいい庭で、人を感動させるだけの力がある」。これは、祖父が昔私に言った言葉です。同じことを高校の担任の先生も教えてくれました。この言葉は庭を造る上で、とても重要なことなのでしょう。将来、造園の道に進んでもこの言葉をしっかり心に刻み、励みにしたいと思います。

 私が造りたいと考えている庭は純和風の庭、つまり昔ながらの日本庭園です。彩り鮮やかで、華やかさのある洋風の庭も魅力的ですが、日本庭園のように、日本人が持っている自然観によって表現された庭は、私にとってとても魅力を感じます。

 日本人はよく「個性がない」「自己主張が下手な民族」と言われますが、言い換えればそれは、自分の意見を主張するばかりでなく、相手の意見も尊重しようとする現れではないでしょうか。そんな民族性が庭造りにも現れているように思います。

 庭造りの手法に借景式と言われる手法があります。借景式とは周囲の景色を庭に取り込み、庭の一部とするところにその特徴があります。京都の修学院離宮や円通寺はいずれも日本を代表する借景式庭園です。自然と調和を図り生かしていく、この姿勢こそが日本庭園の心だと私は思います。

 造園という職業が大変であることは、今、技能士という国家試験へ向けた授業の中で痛感しています。制限時間内で課題を完成するため、スコップで深さ60cmの穴を5分以内に掘ったり、竹垣を作るために14か所の結束を10分程度でしなければなりません。時間だけでなく、美しく見えるように集中して竹を切ったり、地面の小石を取り除き凸凹がないように整地をしたり。

 施工手順はもちろん、道具の使い方、道具の揃え方、ゴミを置く位置までこだわって検定は進められます。30度を超える猛暑の中で行われる検定は、中学の時、体調を崩して入院生活を送った私にとって「職業として続けることができるだろうか」という不安を与えるものです。しかし、最初は4時間かかっていた課題も2回、3回と練習を重ねていくと3時間、2時間30分、そしてついに2時間で作ることができるようになりました。課題は庭という物ではありませんが、完成するたびに美しさも感じるようになりました。

 私は祖父から木の心を学びました。祖父の温かい言葉一つ一つが今の私を支え、心の財産となっています。祖父から学んだ自然の心を持ち続け、日本の文化を絶やすことなく私は継承していきたい。自然の持つ美しさを庭の中に取り込み、そこに人間の持つ心を重ね合わせる。そんな庭が造れたなら、祖父にほんの少しでも恩返しできる。

 私は今後も、造園業に就き庭を造るという夢を叶えるために、造園の勉強はもちろん、日本の文化についてもっと勉強していきたい。そしていずれは、私が次の世代へ庭造りを通して、日本の文化を伝えていきたいと考えています。

 時代は移り変わり、私たちの生活は日々変化していますが、「日本人の自然に対する慈しみの心は、大切に受け継がれていって欲しい」という思いから、造園技能士を目指しています。これが、私の理想とする職業人なのです。


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