鶯谷高等学校 3年

杉 野  里 紗
 

「美術の世界を広げる」
 
 私は小さなころから絵が好きだった。自分で描くのも、美術館で鑑賞するのも、話を聞くのでさえ。

 私はさまざまな画家の絵を見たが特に興味を持った画家が2人いる。2人はジャンルも絵のタッチもまったく違うが、それぞれの良さに引かれた。一人目はルノワールである。彼は印象派の画家として活躍したが、その色彩の淡さや人物の豊かで優しさのあふれた表情がとても好きである。女性独特の笑みや子供の表情にやわらかさを感じる。彼ほど光の美しさを表現できる人はいないと思う。みているだけで優しい気持ちになれるのが、魅力のひとつである。

 もう一人はダリである。彼は映画監督としても有名であるが、彼の絵もまた、シュールレアリスムの代表として有名だ。彼は既成の美学や道徳にとらわれず、写実的手法で幻想的な絵を描きあげた。私はダリの緻密で計算された描きかたや、自分の内面を描き出した不思議な造形に驚かされた。エルンストやピカソもそうであるが、一見不可解な絵の中になにか見い出せるもの(苦悩や悲しみなど)を引き出してくれる。

 絵画にはさまざまな意味がこめられている。その当時の時代背景、文化、そして作者の感情が織り交ぜられているように思う。例えば、かの有名なボッティチェリの「春」の中で咲き乱れている小さな花たちは、当時を支配していたメディチ家の庭で咲いていた花を描いているそうだ。一つのところに視点を合わせるだけでとても興味を感じる。

 だから私はもっと絵画のことを知りたいし、人にも絵画のよさを伝えていきたい。それで私は学芸員になりたいと考えている。もしも自分の説明で人の心を動かしたり、絵の見方を変えたりできるのなら、それはすばらしい仕事だと思う。

 私がとくに学芸員になりたいと思ったのは、ドイツ・イタリアを旅行して美術館めぐりをしたときだ。特にウィフィッツィ美術館でミケランジェロの代表作であるダヴィデ像を見たときの感動は忘れられない。

 日本の学芸員さんにミケランジェロの生い立ち、性格、そしてこの像をつくったときの経緯などをくわしく教えてもらった。例えば手が体の比率に対してとても大きい。これは下から見上げたときに迫力を出すためだそうだ。

 また頭部に穴があいているが、これはダ=ヴィンチの忠告に逆らって屋外に置いたままにしたので、穴があいてしまったらしい。やはりこういうことは、実際に見にいったから分かることである。だから私はみんなにもっと美術館で学んでほしいと考える。

 美術館で絵を鑑賞しているのは、圧倒的に大人が多い。本当に子供の数が少ないのだ。美術館は堅くるしいイメージがあるからだろう。

 学芸員の仕事は作品を紹介するだけではない。展覧会を企画したり作品の配置、プレートの紹介内容を考えたりもするそうだ。このプレートには画家の名前や没年、そしてその絵をどこで描いたか、これぐらいしか表記されていない。これでは内容がわかりにくい。またこのプレートは大人の目の高さにあるので子供は大変読みづらい。また車いすの人達にも配慮ができていない。これでは子供に興味をもてというのは酷な話ではないか。

 だから私はみんなが楽しめるような美術館をつくっていきたいと思う。例えば、プレートの内容を歴史的なものとからめたり、手法について詳しく説明することで、新しく興味を持ってもらえるようにしたい。またそのプレートを子供の目線にも設置することで、みんなが楽しめるようになると考える。

 子供が美術館を気楽に訪れ、絵や彫刻などの美術品を見て、制作者の意図や人生を理解し楽しめるような空間を作る。それが私の夢である。


[閉じる]