静岡県立磐田農業高等学校 3年

石 田  千 尋
 

「アジサイ畑に夢がある」
 
 「ちいちゃん」母の実家のある九戸村のおばあちゃんが幼い私に声をかけました。私は岩手県で生まれ、幼い頃を過ごしました。

 8月の夕方。村の中を散歩していて、一面のアジサイ畑に出ました。村のあちこちにあるアジサイには花が咲いているのに、ここにあるアジサイは咲いていないのです。一緒に散歩していたおばあちゃんに聞いたら、「これは甘茶だよ」と教えてくれました。この甘茶は天然甘味料として地域で生産されていて、地域の地場産品としてお菓子「九戸かっぽれ」として発売されています。この甘茶で九戸村の活性化をサポートするのが、私の夢です。

 甘茶とは、ユキノシタ科のガクアジサイの変種で、普通の緑茶に砂糖を入れたものではなく、葉を乾燥させてお茶にしたときに、甘くすっきりとした味わいのお茶になるのです。九戸村のJAの方に聞いたところ、甘茶の甘みは砂糖の約千倍あるのだそうです。

 しかも、カロリーゼロ、ノンカフェイン、老化防止、抗アレルギー作用、防腐効果など、様々な効能があります。このカロリーゼロの天然甘味料「甘茶」を、私は生産者として増産、普及させたいと思います。

 岩手県九戸郡九戸村は人口約7300人の小さな村で、その面積の70%を山林が占めています。村としては1984年から、生薬メーカー向けの契約栽培がきっかけで甘茶を栽培し始めました。他にも長野県や富山県で甘茶が栽培されていますが、九戸村での生産量が日本一を誇っています。その九戸村でも、ピーク時には年間約10トンの生産量がありましたが、現在では3〜4トンと落ち込んでいます。何故生産量が減ってしまったのかというと、戦後九戸村の甘茶は7割が仁丹メーカーへ、生薬の原材料として販売されてきました。しかし、一時生薬メーカーからの発注がなく、販売数量がゼロになったことがありました。農家にとって、買ってもらえないという不安が根強く残り、生産拡大につなげられないことが大きな原因の一つだったということです。

 それらを踏まえた上で、近年減少している甘茶の生産量を増加させるための取り組みを考えています。一度、私の通っている磐田農業高校で甘茶を栽培してみたいとJAの方にお願いしたのですが、特産品なので持ち出し禁止と言われ、その代わりに昨年の夏に甘茶畑の見学をさせてもらいました。第一印象は「狭い畑だなあ」と感じました。また、たばこ畑や野菜畑が点在していました。田んぼ一枚ほどの畑にまばらに生えたアジサイ。雑草が生い茂っていましたが、それは無農薬栽培をしているためだそうです。その時、私は「狭い畑」を「広大な甘茶畑」にしようと決意しました。

 甘茶はアジサイの仲間で、湿った場所を好み、日陰や痩せた土地でもよく育ちます。九戸村は四方を山に囲まれた村です。これを利用し、山裾の土地など、日陰になってしまう土地で栽培すること。また、湿った土地でも栽培できることから、高齢化が進み耕作放棄地が点在している姿を見て、その田んぼを栽培地として利用し、土地の有効活用にも甘茶は貢献できるのではないかと考えました。

 また、甘茶の利用方法の拡大として、今ある「九戸かっぽれ」を、甘茶の糖類ゼロという特性を生かして、食事制限のある人や糖尿病患者、メタボが気になる方でも食べられるお菓子やお料理にすることを考えています。それができれば、医療現場向けの新たな販路拡大にもつながると思います。

 将来、私は母の生まれ故郷である岩手県に帰り、耕作地の有効利用と甘茶栽培を連動させた農業をしていきたいと思っています。そのために、宮沢賢治の出身大学でもある岩手大学農学部へ進学し、甘茶栽培の基本から応用まで学習し、生産物の加工販売を学んでいきたいと思います。また、応援してくれている祖父母や、JAの方々の期待に応えられるよう地域に根差した農業人になり、九戸村の村おこしに貢献していき私の理想とする職業人になりたいと思っています。


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