鹿児島県立市来農芸高等学校 3年

砂 坂  志 高
 

「種子島の農業を盛り上げるために」
 
 今、僕の故郷、種子島では畜産農家を辞める人達が増えている。その大きな要因が高齢化が進んでいるということ、そして畜産農家の跡取りがおらず、辞めざるを得ないということだ。ここ1年間でも畜産農家が3軒も辞めている。しかも、市場に行っても半数以上が高齢者ばかりだ。高齢化が進むことで、種子島の畜産業は今、岐路に立たされている。

 僕が生まれる前、種子島の畜産業と言えばホルスタインという乳牛の飼育が盛んであった。しかし、近年、黒毛和牛の飼育の方が増えつつある。

 その要因は、ホルスタインの飼育が重労働であるからだ。ホルスタインは乳を搾り、牛乳を生産することで成り立っている。利益を生み出すためには多くの乳牛を必要とするので、1日に数百キロもの量を絞らなければならない。しかも餌は和牛の数倍以上食べ、その糞の量は尋常ではない。膨大な量の餌やりや除糞を毎日欠かさず行わなければならないのだ。

 僕は現在、農業高校に在籍し、日々農業実習に取り組んでいる。ただ、実習時間は1日のうちの2〜4時間程度だ。たかが4時間程度の実習でさえも、身体にかかる負担は大きい。午後の授業をついうとうとしてしまうこともある。ホルスタインを飼育するにはその何倍もの労力を要するのだろう。

 先に述べたとおり、種子島の畜産農家は高齢化が進んでいる。これらの作業を高齢者のみで行っていくのは厳しいものがあったのだろう。事実、私の祖父も3年前まではホルスタインを飼育していたが、今は和牛の飼育をしている。和牛の飼育はホルスタインに比べ、餌の量や飼育頭数などの面から労働力は軽減される。このような経緯があり、現在、種子島では黒毛和牛の生産に力を注ぎ始めている。

 僕の祖父も、この黒毛和牛の飼育でもう一度種子島の畜産業を盛り立てようと奮闘している。しかし、種子島の黒毛和牛市場はまだ始まったばかりと言ってもいい。種子島と言えば「ホルスタイン」というイメージを越える和牛を育てていかなければならない。

 現在、種子島では、島をあげて畜産業を支える動きがある。僕の暮らしている南種子島町ではキャトルセンターという施設を運営している。キャトルセンターとは子牛を畜産農家から一時的に預かり、飼育する施設である。この施設を利用することにより、子牛育成の労働力を軽減し、投資を抑制できる。つまり、高齢者の負担を減らすことができる。これにより、農家経営の安定と、町における肉用牛の生産基盤の強化を図ることに一役買うというわけだ。

 徐々に種子島の和牛は世間に認知されはじめ、いい評価もいただき始めている。しかし、和牛と言えば種子島といわれるほどの実績はまだない。

 僕は、キャトルセンターを活用し、種子島の黒毛和牛のブランドを確立させることを第一に考えている。そして、種子島の黒毛和牛を日本全国に広めることで、若い人達に種子島の畜産に興味をもってもらいたい。その次の段階として、興味を持った若い人達を種子島の地に招きいれ、ともに種子島で畜産業を営んでいきたい。

 若い力が種子島にやってくる事で、キャトルセンターに頼らずとも畜産業を営めるようになるだろう。そうすれば、1頭1頭個性をもった牛の飼育も可能になる。長い構想ではあるが、いつか必ず実現していきたい。

 僕は、将来、故郷種子島で祖父の跡を継ぎ、黒毛和牛農家となる。種子島の黒毛和牛はまだ始まったばかりだ。それだけにやりがいを感じる。うれしいことに種子島には畜産農家を支える態勢もできている。近い将来、若い僕らの世代がふるさと種子島の地から「安心・安全」な牛肉を消費者に届けていきたい。


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