山形女子専門学校高等課程 2年

佐 藤  瑚 子
 

「人間力を身につけて」
 
 今回の震災を経て私の職業意識は少し変わった。サービス業の人達のニーズに応えた迅速な対応・実行力・連帯感に驚いたからだ。遠方からのボランティアの方々もそうだが、地元の人達も技術を駆使して出来ることを無償でおこなう。道具を探して自転車を直す。シャンプーは水が貴重だからカットと拭き取りだけの理容・美容。ラーメンうどん屋、マッサージ…。コミュニケーションをとりながら笑顔を増やしていった。一人一役、確実に持ち場をこなす。少ない人数で日常切り盛りしているから場所の確保・最低限の必要物資や避難所との連携も手際がいい。全てが速く的をえていた。技術もさることながら対応力が日常不可欠なんだな。修行の中で様々なことを身につけたんだな。人間力がすごいと思った。

 別の意味で地域に対する仕事の責任ということにも気付かされた。役場の人・医療関係者は自ら被災者でありながら、仕事をしていた。新聞・報道関係者は情報を得て壁新聞を作っていた。会社が被災し、解雇されても腐った魚を連日片付ける人。瓦礫を片付ける人。報酬はなくとも、今までの仕事に責任を持つ人達がそこにはいた。

 原発の事故現場で働く人達・自衛隊の人だって怖いにきまっている。その人達が「自分達しか出来る人はいない」と頑張る。仕事は自身の自立のため、生活のためと思っていたが、一人では生活出来ない人間が責任を果たしあい、支え合うためにも欠かせないということに気付いた。それならば就いた仕事についてはしっかり学び、人から必要とされたら応えなければならない。どの分野に進んでも仕事に責任を持つ人間でありたいと思った。

 私は将来ファッション関係の仕事に就きたいと思っている。小学生の低学年の時から自分が着たいと思った洋服の絵をよく描いていた。それは洋裁が趣味の母の影響が大きいと思う。1歳の誕生日にもらったケーキの形のガラガラは今でも鮮明に覚えている。薄ピンクのタオル地に苺やクリームが布でかわいく飾られていた。握りも布で痛くないように作られ大のお気に入りだった。小学校低学年の学芸会用に作ってもらった緑のスモッグ型のワンピースはすごく気に入って当日大いに盛り上がった。思い描く物に仕上がることに憧れ、進学の際「製作」を意識して私は服飾専門学校を選んだ。

 入学当初はデザインに興味があった。自由に色を操ることが出来、膨らんだ想像を表すことが出来るからだ。でも今は自分の手で服がきっちり仕上がることに魅力を感じている。一枚の布は三次元の想像を湧き起こした。二次元で表せなかったものが現れ、イメージは際限なく広がる。そして技術が身につけば作品としてきっちり仕上がる自信が付いた時、最高におもしろい、楽しいと感じた。目の前で実践してくれる技術者として先生がいてくださるのがまた嬉しい。耳で聞いたことが目の前で繰り広げられるからだ。

 今回の震災を体験して、アパレル界に寄せられる期待の大きさに驚く。衣食住。日々の生活で衣は確かに大切だとわかっていたが、存在は大きい。色彩面を学べば、カーテン一つにも心のケアの提案が出来るし、素材面では季節に対応した衣服の提供が出来る。現に節電絶対の今年の夏は、涼しい上にきっちり着こなせる『ビズポロ』が注目を浴びている。しかしその縫製技術に応えられるのは東北の2工場に限られていると聞いた。入学時には感じなかったやりがいを感じる。多くを学び、多くを身につけ、応用力を身につけたい。そして起きて欲しくはないけれど天変地異が起きてしまった時、一社会人として今度はきっちり責任を果たしたいと思う。


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