横浜市立ろう特別支援学校高等部(神奈川県) 3年

糠 谷  栞 里
 

「障害とお菓子」
 
 私の将来の夢はパティシエになることだ。お菓子作りという言葉から連想すると、華やかで優雅なイメージがあるが、調理場はいつも戦場のように緊迫した空気が流れている。職人たちの真剣勝負の場でもある。聴覚障害者の私にとって聴こえないということは、かなり厳しい状況で、大けがをする恐れもある。また、指示が正確に把握できず、周囲に迷惑をかけてしまうことになる。それでも、敢えて私はパティシエになりたい。私がパティシエを目指す理由は2つある。

 まずは、唯唯、お菓子を作ることが好きだからだ。私がお菓子作りに出会ったのは幼稚園の時だった。その頃から母と一緒に作っていた。様々な材料を使い、それが形を変え、次第においしい物に変化する。そんなたわいないことが不思議で、楽しかった。いつもオーブンの前で飽きずに眺めていた。片付けの時には、バターと砂糖がついたホイッパーを舐めることが楽しみだった。

 成長するにつれ、様々な食感が楽しめ、材料の素材を生かせるお菓子の虜になっていった。やがて、見ているだけでも幸せな気分になれるお菓子作りを、自分の生涯の仕事にしたいと思うようになった。

 私には尊敬するパティシエがいる。野菜のスイーツを考えた方で、彼女のスイーツを食べたことがある。そのケーキは、野菜の素材を壊すことなく工夫されていて、野菜本来の甘みが十分に生かされていた。食べた瞬間、とても幸せな気分になった。彼女のように人の心を幸せにするパティシエになりたいと強く心に思った。

 そして私にはもう一つお菓子作りを通して聴覚障害の後輩たちを勇気づけるメッセージを贈るという願いがある。

 聴覚障害者にとって調理場での仕事は難しい。だからこそ、パティシエになり、耳が聴こえなくても夢を叶えることができる。努力すれば道が開けるということを同じ障害の人々に伝えたい。

 来春、高校を卒業したら、就職をするつもりだ。本当は、すぐにでも専門学校に行って学びたいが、家庭の事情で諦めた。まずは就職をし、貯金をしてから学校に行くことに決めた。そして、目標の額に届いたら、専門学校に通い、お菓子作りの技を習得したい。

 一番気がかりなことは、コミュニケーションのことだ。会社では、分からなければ筆談という方法もあるが、学校や調理場では筆談をする余裕はない。自ら先の行動を考え、行動しなければならない。実際、直面してみて分かる様々な困難があると思う。しかし、私はどんなに辛くても決して逃げない。前向きに取り組み、必ず夢を叶えてみせる。

 夢が叶ったら、様々な障害者の人々と一緒にお菓子を作る交流の場を、設けたいと思っている。残念ながら日本には、まだそうした交流の場が少ない。

 お菓子は、人の心を和やかにし、幸せな気分にしてくれる。だからこそ、私はお菓子を通して交流できる場を作り、多くの障害者を元気づけたい。

 その夢を叶えるためにも、私は人とコミュニケーションを取ることを積極的に行い、自分から話しかけられるように努力したい。お菓子はその人の心情を映し出す。形さえ整えばそれでいいわけではない。

 人を幸せにするお菓子作りを通し、交流を深めることは決して容易な道ではない。様々な人々と出会い色々な考え方を吸収し、自らの将来の夢に繋げていきたい。

 今、私は回り道をしながらも、夢に向かってゆっくりと着実に歩んでいきたいと思う。


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