今泉女子専門学校高等課程(福島県)
3年

菅 野 みずき
 

「目標はぶれない」
 
 和裁は、授業の中で一番好きな教科だ。着る人に合わせ、心をこめて縫い、完成した時の喜びは格別で、入学以来ずっと楽しく作品作りをしてきた。

 将来は、和服に携わる仕事をしたいと考えている。

 3月11日、地震に見舞われたのは、和裁の授業中で、まもなく終業のオルゴールが鳴ろうとしていた。私は前から楽しみにしていた次の日(土曜日)のお出掛けのことを考えていた時だった。

 突然、ポケットに入れていたケイタイが震えた。迷惑メールのバイブとは何処か違う。確かめる為にポケットからケイタイを取りだそうとした瞬間、教室の戸や机が大きく揺れ、クラスは騒然となった。

 以前、担任の先生から「非常時の時は、2階建ての校舎の方へ何も持たずに避難する様に」と指導を受けていたので、私達は2階の調理室に掛け込んだ。

 それから先のことは、全く私の記憶から抜けている。友達からの話をまとめてみると、食器戸棚のガラス戸の中からお皿がたくさん飛び出してすごい音で割れ、天井からは水が流れてきて恐ろしかったが、みんなで固まってじっと耐え、それから一階へ移動して外へ避難したそうだ。

 私の記憶は、そのあたりからはっきりしている。私の目からとめどもなく涙が流れていた。

 無事避難したとはいえ、余震が続き恐怖心は消えなかった。

 さっきまで友達とおしゃべりをしていたのに、明日のお出掛けを楽しみにしていたのに、いつも通りでないことが、前ぶれもなく起こってしまった。

 こんな恐ろしい経験をした事は無い。これから何が起きるか分らないことも不安で、このまま何もかも、ダメになってしまうのではないかと考えてしまい、立っているのもやっとだった。

 全員無事を確認し、それぞれ帰宅することになった。

 家へ帰る途中、ふと気がついた。持ち物はケイタイだけだということに。

 登下校時に履いていたローファーも、いつも持ち歩いていたカバンも、そして何よりも大事にしていた二部式着物を作る反物も教室に置いたままだった。また不安が心の中に広がり始めた。

 あんなに仕上げるのを楽しみにしていた水色の反物……。

 校舎の復旧工事が一段落するまで、学校近くの大きなビルの部屋を借りて週一回のスクーリングが始まった。毎日学校へ通い楽しく過ごしていたのが、家で一人になる時間が多くなり、自分の将来の事を考えるようになった。どうする事も出来ない絶望感の極限までいったので、今何をすべきか何をしたいか、はっきりと分かった。

 自分には、ぶれない目標がある幸せを実感した。「和裁が大好き」という気持ちが、この地震で更に大きくなった気がする。

 私は3年生、卒業後の進路ははっきり決めている。和裁を更に勉強する為に進学することを。

 校舎も工事が進み、勉強も教室で出来る様になり、また楽しい授業が再開した。やっぱり学校はいい、と心から感じた。

 あんなに心配していた着物地も、無事手元に戻り安心した。

 きれいに仕上げて大切に大切に保管し、将来どんなことがあっても、この着物を見て、大地震で乗り越えた強い気持ちを思い出し、自分の選んだ道をしっかり歩んでいきたい。


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