横浜市立ろう特別支援学校高等部 2年

上 岡  彩 乃
 

「先生の背中を追いかけて」
 
 私は小学生の頃から国語が好きでした。それは、両親がとても読書好きだったからです。本に囲まれて育った私は、自然と本に親しんでいました。幼い頃は、絵本ばかり読んでいたので、いつのまにか言葉に慣れ親しみ、気がつくと本が好きになっていました。

 聴覚障害者である私は、聴覚という大切な機能を失いながらもこの世に生を受けました。聴覚障害者の多くは、耳から入ってくる膨大な量の情報を得ることはできません。そのため、日本語の習得が十分にできていません。私も例に漏れず国語が好きだと言ってはみても、正しい日本語が使える訳ではありません。

 中学に入学した時、一人の先生と出会いました。先生は私のクラスの担任で、私達に色々な事を教えてくれました。例えば、誰にでもできる簡単な計算の方法や、日本語の文法についてです。特に力を入れて話してくれた事が、「本の魅力」についてです。先生はあだ名に「本の虫」と付けられるほど、こよなく本を愛していました。私も読みますが、先生の域にはとても達しません。先生は、本嫌いな人に対しても、毎日のように「一日十分でいいから、本を読みなさい」と語りかけてくれました。最初は私も煩しいと感じていましたが、少しずつ言葉に耳を傾けるようになりました。それまでは、月に二冊程度しか読まなかった本を、毎日欠かさず読むようになりました。いざ読み始めると、面白くて止まらなくなることもしばしばあり、中学校三年間で百冊以上、読破しました。さらに、アドバイスもあり、読み終える毎に簡単な感想を書き、ノートにまとめました。

 中学二年生の頃、ひと足早い進路面談で、担任から「将来何になりたいですか」と聞かれ、私は思わず「教師になりたいです」と答えていました。その瞬間「はっ」と思いました。思わず答えた一言で先生のような教師になりたいと改めて思いました。

 高校に進学した後、私は二人の先生と出会いました、一人は今のクラス担任、そしてもう一人は授業で論文指導をしてくれている先生です。二人は私の「教師になりたい」という気持ちを理解し、私に教師の有るべき姿や、なる為に必要なノウハウを教えてくれました。

 また、世の中の動きや本を読む事の大切さ等を中学時代の先生と同じ様に教えてくれました。それまで本当に教師になるべきか迷っていた私ですが、二人との出会いで悩みは一気に解消されました。「やはり、教師の道を歩もう」と決めたのは、高校一年の秋でした。

 そして、もう一つの私の夢。それは、国語の教師になって聾学校で教壇に立つことです。聴覚障害者は、正しい日本語を習得するのが難しいと言われています。他教科の教員になる人はいても、国語の教員になれる人は少ないのが現状です。私も御多分に漏れず正しい日本語が使えませんでした。それが中学や高校で先生方の指導の下で努力することで、少しずつ正しい日本語が使えるようになってきました。

 聴覚障害者の中には夢を途中で諦めてしまう先輩方を幾人も見てきました。だからこそ、私は聾学校の国語の教師になり、「聴覚障害者の私でも教壇に立つことができる。あなた達も夢を諦めずに努力を続けて自分の夢を叶えて欲しい」というメッセージを生徒に伝えたいと思いました。

 教師とは、未来を担う子ども達を、それぞれの適正に合った道に案内する道標だと私は思っています。そのやりがいのある仕事に私は憧れ、夢を叶えるために懸命に頑張っています。今まで教えて頂いた事をいつしか教壇に立ち、生徒に伝えていくこと、それが私の大きな夢なのです。


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