早稲田大学系属早稲田実業学校(東京都) 3年

本 橋  り の
 

好きな仕事「で」夢を叶えるために
 
 「好きな仕事で夢を叶える」これは、希望職種への就職がゴールということではない。

 小学校4年生の時。病気のため学期途中で転校し、周りにまだ馴染めていなかった私は、クラスメートにこんなことを言われた。

 「りのちゃん、劇の脚本書いてくれない?」

 どうやら、クラスのお楽しみ会で紙人形劇をするらしい。画用紙にキャラクターを描き、その裏に割り箸を貼り付け動かす簡単な人形劇だ。ピーマンやニンジンを擬人化したもので、ストーリーが決まっていないから書いて欲しいということだった。転校してきたばかりで目立つのもどうかと思ったが、その子が何度も頼みに来るので、友達になる良いチャンスだと思い直し、やってみることにした。

 その頃「ペ・ヨンジュン(ヨン様)」が流行っていたこともあり、ニンジンの名前はニン様にした。

 その結果、お楽しみ会は大成功。小学1年生の担任の先生から「私のクラスでもその劇をやってくれないか」と依頼も来た。私達「ニン様劇団」は、はりきって演じ、クラス会以上の成功を収めた。しばらくは、廊下で1年生に会うと「ニン様だ!」と話しかけられたり「嫌いだったけれど、ニンジン食べられたよ!」と報告を受けたりもした。そうして学校の中でも自分の居場所を見つけることができ、残り2年の小学校生活も楽しく過ごすことができた。

 そんなことから、漠然と「何か書く仕事がしたい」と思うようになった。

 年に1度のこの作文コンクールで、仕事について改めて考える機会を得、高校1年の頃には、放送作家、高校2年になると、大変な仕事ではあるが教師という選択肢も生まれた。

 「書く」ということは、自分の頭の中を整理し見つめ直すことだ。そして母から、実は友達が脚本を頼んできたのは先生が「書くことが好きな転校生だから頼んでみたら」とおっしゃってくださっていたのだということを聞いた。

 高校1年の時。「参考に」と、配られた古典のプリントを解いたものの、答えが分からず担当の先生に解答をいただきに行った。個人的に話したこともなく、一見怖そうな先生だったので、不安だった。

 しかし、「丸つけておくから、後で来るように」と、おっしゃってくださり、放課後に職員室に行くと既にプリントは丸つけがしてあった。

 「本橋、時間あるか?」

 私は頷いた。すると先生は、間違えたところを理解しているか確認しながら、分かりやすく解説してくださった。それをきっかけに私は、その苦手だった教科を頑張ろうと思い始めた。最後にプリントにつけられた大きな花丸。高校生になっても花丸は嬉しい。

 私はそれまで、「書く」ということ自体が好きなのだと思っていた。だが、本当は誰かを楽しませたり励ましたりしたかったのだ。その手段が「書く」ことだったのだろう。あの時の人形劇のように。

 今、就職して3年以内に転職する人が多いと聞く。それによって自分の目標に近づくことができるのならばよいが、なりたい職種に就いた時点でしたいことが見えなくなっているのではないだろうか。就職=夢ではない。好きな仕事「で」夢を叶えるのだ。そのために、自分の夢を確かめながら、自分が今すべきことを、積み重ねていかなければならない。私は夏休み中、ボランティアの読み聞かせをすることにした。

 このコンクールに応募できるのは、今年で最後だ。だが、毎年7月を「仕事について」書く月と決め、これからも自分の夢について見直していくことにしたい。

 書くことで見えることが、たくさんあるはずだから。


[閉じる]