群馬県立中之条高等学校 2年

蜂須賀    司
 

命の大切さを伝えられる栄養士を目指して
 
 「もういらないから、捨てちゃおう!」

 そういって当たり前のように残飯入れに捨てる。どこにでもある給食の時の光景です。捨てるのには理由があります。食べきれない、嫌い、ダイエット。でも、それでいいのでしょうか。

 私は農家に生まれ育ち、食べることが大好きな子どもでした。そして、作物が育っていく楽しみや苦労も自分なりに経験してきていると思っています。

 泥まみれになって、ずっと腰をかがめたままで行う田植え。病気の時には一晩中寄り添い、自分の子どものように苦労して育てた家畜。それらが、日々成長していく様子を目の当たりにしていると、命の存在を実感します。命を慈しみ育てる喜び、食べ物に感謝する心。それを自分の農業体験の中から、私は自然に身に付けてきました。

 食べ物は全て命をもっているものです。私たちは命のあるものしか、食料として利用できません。その命を犠牲にして、そして生きています。これはとても残酷なことです。しかし、だからこそ命は尊いものだといえるのです。

 現在、自殺者の増加が社会問題化しているといいます。自殺者数は年間3万人を超えています。交通事故による死亡者は5千人以下ですので、この数字の大きさにはビックリしてしまいます。これは、命を粗末にしている人が増えていると言うことに他なりません。

 食べ物を大切に扱うことは、他の人の命や、自分の人生を大切に扱うことにつながります。いじめ・不登校・万引き・喫煙など学校生活には、いろいろな問題があります。それらは、自分自身を大切にしていないから起こってしまうような気がしてならないのです。

 私は将来、学校の給食センターの栄養士になりたいと考えています。そして、食と農との橋渡しを是非やっていきたいのです。

 農家に生まれ、中之条高校で農業と食品について学んだ私だからこそ出来る取り組みが必ずあるはずです。子どもたちの農業体験への参加。うどん作りは粘土遊びのようですし、生イモからのコンニャク作りはスライムのようで、初めて経験した子供には大きな驚きがあるはずです。

 「おきりこみ」や「すいとん」、「おやき」など、家庭ではあまり食べる機会が少なくなってしまった郷土料理を老人会の方に作り方を教えてもらって、昔の話を聞きながら食べる取り組み。地元の農家の方が作った野菜を取り入れて、栽培した農家の方と子どもたちが一緒に給食を食べるなど、地域の方、特に老人会の方の力をお借りして、学校と地域が一体となった食育活動を行っていこうと考えています。私も多くのことを祖父母から学んできたのです。

 そして、自分たちが地域の人に支えられているという事を子どもたちに実感してほしいのです。老人会の方も快く協力してくれると私は信じています。

 また、残酷かもしれませんが、中学生にはと殺場の見学で命の重要性を実感してもらうことも大切だと考えています。

 知識としてではなく、子どもたちが自分の目で見て、体と心で感じ取れるような、体験を通した本当の理解をしてもらいたいのです。

 何百人もの子どもたちに、食べ物の大切さと農業の役割を伝えていきたい。そして、私が作物や家畜の成長を楽しみながら見守ってきたように、子どもたちの心に命の尊厳と自分を大切にする気持ちの種をまき、それが子どもたちの中で育っていくのをずっと見届けていきたい。それが私の目指す栄養士なのです。


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