静岡県立小笠高等学校 3年

松 井  善 康
 

祖父の背中
―50年目の農家として生きる―

 
 私の家の仏間に飾ってある賞状。幼心に何だか分からないが大切なものなんだろうと漠然と思ってきました。ある日祖父に尋ねると「もっといいものがあるよ」と言って出してきたもの、それは何通もの手紙でした。その手紙は私の家のメロンを買ってくれた方からのものでした。

 その手紙を嬉しそうに私に見せる祖父の姿を目の当たりにした時、私の目指す道がはっきり決まりました。

 私の家は祖父の代から50年続くメロン農家です。小さいころから、祖父や父が大粒の汗を流しながら温室の中でメロンを栽培する姿を見ながら育ってきました。

 居間や仏間にたくさん並ぶ農林水産大臣賞や品評会等の賞状は、祖父や父の仕事の証であり、誇りでもあります。そして祖父が一番大事にしているお客様からの「おいしかった」「ありがとう」のいっぱい書かれた手紙を見て育ってきました。私は今、いつか自分もこういった手紙をもらうんだ。もらえる人間になる。そう思いながら、祖父、父の背中を追っかけています。

 小笠高校農業科学系列では、お客様に喜ばれるメロンを栽培するための基礎知識や技術を磨きました。学校の温室で日に日に成長するメロンの姿、そして、収穫の感動、私が学校で作ったメロンを初めて祖父や父にも食べてもらいました。その時「おいしい」と言ってくれた言葉にすっかり自信をもった私は、家業のメロン農家三代目を継ぐ決心を家族に話しました。

 私のことを気遣ってくれた祖父はとても喜んでくれました。しかし、母は反対、そして父からは「ただ育てるだけじゃダメだ、その中で何をするかが大事なんだ」と言われ、まだまだ未熟な私は大変悔しい思いをしました。

 私は、「同じ農業に関する仕事をしているところに行けば、何か見えてくるかもしれない」と、インターンシップで県内の先進農家を見て回ったのです。その中で「赤ずきんちゃんのおもしろ農園」では、市場出荷を避け直接販売を行っていました。また障がい者や体の不自由な方のための工夫や、様々な栽培技術を試すなど、新しい農業スタイルを作ろうと農業に福祉を導入した新たな農業の視点を強く感じました。

 また名倉メロン農園は、組合から脱退して独自の品種のメロンを育成し、地域に先駆けて六次産業化に成功した農家です。その成功までの種作りに約10年、加工の技術、資格取得など様々な努力を毎日、消費者側の目で農作物を考えたと聞きました。

 2つに共通するのは経営者の気迫とその先見性、そして地域をどうすべきか考える視野の広さでした。インターンシップは、私に我が家の将来を深く考える契機となったのです。

 私の家も11棟の温室で年4・5作行っています。毎日大変忙しく、父、母、祖父、祖母では少々厳しい部分もあります。

 農業の高齢化は急激に進んでいます。これからは祖父のような高齢の従業者のための対策として作業の効率化、作業の単純化を進め、高齢者の持つ技術の細やかさを活かす工夫を図ることで、生涯産業“農業”スタイルができていくはずです。

 低コストの工夫として省エネ化を推進していきます。昨年から「ヒートポンプ」を導入し半年で重油を半分に抑え、電気量も大幅に抑えることができました。さらに地域の自然エネルギーを生かし太陽光、風力、波力による発電により、よりクリーンなメロンづくりを目指します。

 私のビジョンは膨らみますが、まだまだ祖父や父には技術も経営も知識も届きません。大学に進学し育種や病理について学び、地域リーダーとしていつか父を超え、祖父を超えられるような将来のビジョンを実現することを今ここに誓います。待ってろよ、父さん!じいちゃん!


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