愛知県立岩倉総合高等学校 3年

加 藤  明日香
 

父の背中を見て
 
 3K。あなたはこの言葉を知っているだろうか。「危険」、「汚い」、「きつい」。この3つの言葉の頭文字をとって、3K。私の父の仕事は、世間からそう呼ばれている。父は土建屋だ。

 土建屋と聞いて、良いイメージを抱く人はあまりいないだろう。夏でも、けが防止のため炎天下の中、長袖の作業着を着用して働く。冬は、行政が余った税金を消化するため、集中的に仕事が入り、休む暇もない程忙しくなる。誰もが嫌がるような辛い仕事かもしれないが、父は嫌な顔一つせず働いている。

 しかし、周囲の目は決して温かいものではない。実際、父は仕事をしていると、近所から「音がうるさい。」だとか、「震動で壁にヒビが入った。」などといった苦情を多く聞くそうだ。私は父にたずねた。3Kと呼ばれるような仕事をして、周囲からは疎ましく思われ、辞めようと思ったことはないのかと。すると父は、「誰かがやらなければみんなが困る。どれだけ疎ましく思われようと、みんなが困らない生活を送るためなら辛くてもこの仕事を続けたい。」と答えてくれた。

 私は、そんな父の仕事に対する姿勢を見て思った。世の中には、土建屋のように誰もが嫌がるような職業も含め、様々な種類の職業がある。今は就職困難だ、不景気だと言いつつも働くところはいくらでもあるのだ。辛い仕事はしたくない、楽をして稼ぎたい。そうやって職業を選ぼうとするから、仕事がないのだ。このように、甘えた考えを持った人間よりも、父のような真心を持った、仕事と向き合っている人間の方が立派でかっこいいと私は思う。

 ある日、父はこう言っていた。「土建屋の仕事は、誰でもできるように見えてそうでない。1ミリ、1センチの狂いも許されないから、かしこい人間でなければこの仕事はできない。だから、俺はこの仕事に誇りを持っている。」と。

 私はこの頃、就職をするにあたって、どんな仕事にしようか、自分に向いている職業とは何なのか、悩んでいた時期だった。そんな時、父からこの話を聞いて、「自分が将来、父と同じ歳の頃になった時に、父と同じように自分の仕事に誇りを持てるようになりたい。」と思った。

 自分が子どもの頃、描いた夢と違う仕事でも、今やりたいと思う仕事でなくても、私自身がその仕事に、誇りを持てたらそれで良いと思えた。きっと父も、そのことを私に伝えたかったのだと思う。

 高校に入り、父と会話を交わすことが心なしか前よりも増えてきて、学生から社会人に近づいてきて、私はふと感じた。こんなにも大きかったのかと。仕事に対する考えや、働くことの意味をまだ理解していなかったころは、何も感じなかったその背中が、今ではとても大きく温かく感じる。

 そんな父の背中を見て、私は思う。世間から3Kと呼ばれ、疎まれながらも、安全で快適な生活を人々が送れるようにと真心込めて働き、土建屋という仕事に誇りを持っている父は、私の誇りだ。父のような職業人に私はなりたい。


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