静岡県立小笠高等学校 3年

辻    壮 太
 

志を継ぐ ―我、牧之原のこやしたらん―
 
 全国一の大茶園牧之原が我が故郷であり、祖父からつづく茶業農家の長男として生を受け、今この牧之原に堂々と根を張る私の夢がある。

 我が家はこの地で祖父の代から茶業を営む専業農家である。経営面積は2.5ha、主要品種「やぶきた」を栽培加工し、年収は過去の最盛期には数千万円を超えた。しかし、近年の茶の価格の低迷を受け、現在は1千万を切り、両親二人で働いても厳しい状況にある。しかし、八十八夜の一番茶最盛期には母方の祖父母や知人が手伝い、休日返上で皆で茶を摘む姿と、汗をかきながら茶を蒸す香りは私の心を満たす至上の時でもある。茶をつくることは祖父も父もまだまだだと日々の精進を怠らない。この道の深さを感じたとき、将来の夢を持ったのである。

 私は将来父の跡を継ぐ。小笠、菊川の大茶産地をかかえ、生産、加工、流通を行う全国唯一の茶業の勉強ができる小笠高校に入学し1.3haの「高田ヶ岡農場」で自走式摘採機による茶刈りや自動薬剤など、先進技術を習得している。農場の入口に建つ石碑に刻まれた校訓「至誠実行」は祖父、父の精神の支柱となり、今自分のものになっている。農場で汗水流して茶刈り、工場では自分たちで製茶し、それを全国へ通信販売し、まさに生産から販売に至る一貫経営を学ぶ中で気づかされることがあった。毎年楽しみにしてくれるお客様が全国にいる。その期待の大きさであり、50年を超える連綿と続く重さである。茶を知るほど、ますますお茶が好きになった。しかし、ただ好きでは祖父、父の茶の思いは引き継ぐことができないことも現実である。父母が経営する茶業の問題点について考えた。

 第一に、規模拡大。今まで我が家は簡易自走型の茶刈機を使用してきたが、これは乗用茶刈機に比べ効率が悪く、摘採をはじめ多くの作業に時間がかかる。茶園の基盤整備を行い、乗用茶刈り機の導入により効率性を上げ、規模拡大を目指す。また、耕作放棄地の利用も取り入れていこうと思う。今農業後継者が少なく、大産地牧之原と言えども高齢化は避けられないが、私のようにやる気を持つ者にとって大きなチャンスとなっていると思う。

 第二に、販路の拡大である。ネット販売を利用し、信用とうまさ、良さを正しい情報として消費者に発信することである。昨年、県内産のお茶から放射性物質が検出され、風評被害も加わり、一時期静岡茶の信頼性を失いかけた時があった。消費者に早く正確な情報を伝える必要があることも痛感した。私の周辺は「富士山静岡空港」や「お茶の郷」、茶祖「栄西禅師」の立つ牧之原公園をはじめとする様々な観光スポットにも恵まれており、それらと連携も図りたい。できれば、購入者に緑広がる牧之原に来ていただくこともできるのではないだろうか。クッキーやお菓子など、付加価値をつけた製品の開発・販売も両親と探っている。そして最後に、地域の先輩、仲間と団結し地域を振興していくことが私たち若者の務めではないだろうか。我が家の近くには長い研究実績を持つ茶業研究センターもある。近隣には同じ小笠高校を卒業した茶業農家が大勢いる。研究機関や地域の先進農家との連携を深め、地域の仲間とともにお茶を作っていく。私の夢は地域と共にこの牧之原にある。

 今年の我が家のお茶は、3月の低温や天候不良により成長が遅れた。さらに、海岸付近の地域では台風による塩害を受けた。風評被害も未だに尾を引いている。毎年厳しい状況ではあるが、旧幕臣中條影昭はかつて、「何があっても山は降りぬ。茶畑のこやしになるのだ」と決意し、牧之原台地に骨をうずめた。その志は祖父から受け継がれ、父そして私の心に宿る。「牧之原のお茶」が全国の茶の間に並び、家族がテーブルを囲み茶を飲みながら絆を深める、その夢に向かって私は邁進したい。


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