横浜市立ろう特別支援学校高等部 3年

本 橋    慎
 

明るい未来を目ざして
 
 私は小さい頃から、自動車会社に就職したいという夢をもっていた。その理由は、物を使って様々な形を作ったり、組み立てたりするのが好きだったからだ。元々手先や体を動かす仕事に向いていると自分では思っていた。 

 小学5年生の社会見学で、工場を見学する機会があった。その時、車体を組み立てている人達が、脇目も振らず一生懸命仕事に精を出している姿を見て、将来こういう職場で働いてみたいと本気で思うようになった。

 高等部に入学し、自動車会社に就職した先輩方から様々な話を伺う機会があった。「仕事は厳しいが、それなりの給料が入り、やりがいがある仕事だ」と聞き、就職したいという思いが一段と強くなった。そして、将来は自らの手で製造した車を買った人達に、安心して乗ってもらえるような車社会を築く役割を担えるようになりたいと思うようになった。

 しかしながら、私には大きな課題がある。それは、私が聴覚障害者であることだ。今まで何不自由なく、健聴者と普通にコミュニケーションが取れるものだと信じていた。ところが、それは学校という狭い社会の中に限定されていたことに、ある時気付いた。

 先輩方から聞いた体験談にも、必ずコミュニケーションの話題がある。それだけ私たちは多くコミュニケーションの問題を抱えている。将来、健聴者と互いに理解し合えるような力を身につけることは、私たち聴覚障害者にとってはとても大変なことなのだ。一体どのようにしたらその壁を乗り越え、自ら社会に適応できるかが私の大きな課題でもある。

 とりあえず今の自分にできることは、国語力を高め、誰に対してもはっきりと発音し、自分の話したいことを相手に伝える力を身につけることだ。そして、言葉で意思表示ができない時に、きちんと筆談が行えるように、文章力を獲得することだ。

 今、一番の悩みの種は社会に出た時、どのようにして人間関係を築いたらいいか分からないことだ。今まで「ろう」という閉ざされた社会の中で生活してきた私にとって、人との接し方が分からない。

 また、消極的な性格のために積極的に面識のない人に話しかける自信もない。社会から孤立することなく、果たして友達を作り、職場に適応できるかどうか心配だ。 

 来年の3月、卒業を迎えるまでに自らの課題を少しでも克服し、社会の役に立つような人間になりたい。その為には、自分のことを周囲に理解してもらえるように努め、分からないことは質問できるようにしたい。

 今まで私は精神面が弱く、大事な時はいつも弱気になってしまった。その弱点を克服する為に、中学1年生の時から卓球部に入部した。辞めたいと思ったこともあったが、なんとか6年間続けることができた。最初の頃は試合に負けそうになると「もう負ける。諦めよう」と心の中でぼやいていた。

 ある時、顧問の先生が「諦めようとする気持ちを持っていると、気持ちがどんどん弱くなる。本当に負けたくなかったら、最後まで諦めるな!」と励ましてくれた。その時以来、気持ちを入れ替え、どんな時にも諦めない心を持とうと決心した。 

 諦めない気持ちを持ち続ければ、将来何があっても困難を乗り越えられる。今まで受けた様々な教えを忘れないで、社会に出た時に生かせるようにこれからもくじけず頑張り続けたい。

 もし、夢が叶うのなら、環境に優しい車を世界中に広めたい。地球温暖化が深刻さを増している中、環境に優しい車を走らせる社会を築けるように貢献したい。それが私の夢だから。


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