拓殖大学第一高等学校 1年

我 妻  沙耶奈
 

医師の仕事に就くために
 
 「医者になって、日本の人達の命だけではなく、発展途上国に住む人達の命も救う活動をしたい。」

 そう思うようになったのは、今からちょうど1年前、私が中学3年生の夏頃だった。ある1冊の本が、それまで将来の夢がなかった私に、1つの目標を持たせてくれた。

 皆さんは、「トットちゃんとトットちゃんたち」という本を読んだことがあるだろうか。この本は、大勢の人が知っているだろう、黒柳徹子さんが書いたものである。ユニセフの親善大使を務める彼女が、発展途上国を実際に訪れた時のことが記されている。私は心をいためながら読んだ。なぜなら、この本から伝わってくる現実が、あまりにも悲惨なことばかりだったからだ。

 水を飲むために10キロ以上歩き、濁った井戸水をくみに行く子供達。栄養失調でやせ細った体。予防接種を受けられずに失われた、助かったはずのたくさんの命。そして、それらが原因で、1年間に約1400万人もの子供達が亡くなっているという事実。私は、この現実を受けとめることができなかった。いや、受けとめたくなかったというべきだろうか。

 また、本の中で印象に残っている言葉がある。

 「大人は死ぬときに、苦しいとか、痛いとか、いろいろ言いますが、子どもは何も言いません。大人を信頼し、黙って、バナナの葉っぱの下で死んでいくのです。」

 気が付けば私は、目の前の、たった6行の文を、何度も何度も読み返していた。文から想像するだけでも恐いのに、実際にその中で生きる彼らはどれだけ恐い思いをしているだろう。病気というのは、こんな純粋で素直な子供達まで苦しませる。日本の医療技術のように十分な治療さえすれば助かったたくさんの命がある。私はいつしかこの状況を自分の手で変えよう、そう決心していた。

 それから私は、自分の目標を達成するため、様々なことに取り組んでいる。例えば発展途上国や医療の本を読んだり、実際に発展途上国で働く国連職員の講演会に行ったりした。中でも講演会では、大人が50人以上いる中で中学生1人という状況でとても緊張したものの、国連職員の生の声を聞くことができ、本当に貴重な体験だった。

 その経験をふまえ、勉強にも励んでいる。医者になる、というのは、言葉で言うのは簡単なことであるが、実現するためには相当な努力が必要だ。

 しかし、私は決してこの目標を諦めたくない。今、この瞬間にも、尊い命が亡くなっているのだ。少しでも多くの命を救いたい。心がきれいな彼らの素敵な笑顔を見たい。彼らの幸せを守りたい。だから私は、命を救うためにも、自分のためにも、目標を必ず実現させるよう、努力を重ねていきたい。


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