熊本県立玉名高等学校 1年

牧 山  知 生
 

ヒーロー
 
 25人、これは何の人数か分かるだろうか。これは、東日本大震災で殉職された、警察官の人数である。私の理想とする職業人、そう、それは警察官だ。

 アンパンマンやウルトラマン、彼らは幼い頃の私にとって、まさしくヒーローだった。どんな逆境に立たされようとも、決して諦めず、最後は必ず悪を断つその勇姿、自分を犠牲にしてまで、人々を守るその献身的な姿勢に憧れたのだ。そのため、その頃から、大きくなったら悪に立ち向かい、人々を助けるヒーローになる、という漠然とした夢を抱いていた。

 小学校低学年の頃である。学校から自宅へと帰る途中、偶然パトカーを見かけた。パトロールの為か、ゆっくりと走行しているそのパトカーに対し、私は敬礼をした。すると、そのパトカーに乗っていた警察官が、「おっ、未来の警察官か。」と声を掛けてくれたのである。その言葉を真に受けた私は、警察官になるのも悪くはない、と感じたのであった。

 そしてそれから数年後、私のその思いを、より強い物にする出来事が起きた。

 2 0 1 1年3月11日、マグニチュード9にものぼる巨大な揺れが、家々を次々となぎ倒し、それに伴う津波は、東北の街を飲み込んだ。さらに福島県では、原子力発電所の事故により、有害な放射線が漏れ出した。昨日まで当たり前にそこにあったものが、今はもう存在しない。その虚無感、絶望感は、はかり知れないものだっただろう。

 しかし、そのような状況の中でも、己の職務を全うし、最期のときまで、人々を救い続けた人たちがいる。そう、それは警察官だ。彼らは、多くの人を守るために、人々の先頭に立ち、安全な場所へと誘導した。また彼らは、自然の脅威に立ち向かった。その結果、25名もの警察官が殉職を遂げたのだ。

 私はこの事実を知ったとき考えた。自分の命を懸けてまで誰かを助けることが、私にはできるのだろうかと。いや、できない、今は。でもいつか、私はそのような人間になりたい。誰かの幸せを自分の幸せのように感じ、自分の幸せを人々と分かち合う。そのようなことができる人間になりたいのだ。そのために今できることは、困っている人に手を差しのべたり、悩んでいる人の痛みを受けとめたりと、沢山ある。そういった小さなことの積み重ねで、人間が出来上がっていくのだと思う。

 日本は、比較的治安が良いと言われる国である。しかしそうは言っても、毎日のように犯罪や事故が起きている。自分がいつ、それらに巻き込まれるか分からない。だから、警察官はなくてはならない存在なのだ。そういった意味では、警察官とは空気のような存在なのかもしれない。普段はそのありがたさを意識しないが、なくなってしまうと困ってしまうことだろう。

 警察官は、今の私にとってまさしくヒーローだ。しかし数年後の私にとっては、もうそのような存在でないかもしれない。なぜなら私は、未来の警察官だから。


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