沖縄県立那覇国際高等学校 3年

平 良    匠
 

原点に戻って
 
 「自分がなぜこの道を選んだか悩んだときは、原点に戻りなさい。そうすればきっと答えは見つかるから。」

 インタビューに答えてくれたその人は、私の目を見つめてそう言った。

 昨年の夏、私は3日間インターンシップで医師体験をした。医師を目指す私にとってこの機会はとても貴重であり、働く医師の姿を間近で見られることを楽しみにしていた。

 病院には様々な部署があり、それぞれの専門分野に分かれて患者を診療・治療している。担当者の計らいで、私は3日間ですべての部署を回ることになった。初日、「早く医師が仕事をしているのを見たい」と待ちきれない私を担当者が連れて行った部署は、受付であった。「ここで40分受付の仕事を体験してください。」担当者は笑顔で私に言った。医師の働く姿を見られると思っていた私は少しがっかりしたが、受付の仕事である患者の案内や患者さんに問診表の記入の補助を行った。30分が過ぎ「早く医師の仕事を見たいな」と思っていた私に、一人のおじいちゃんが問診表の書き方を尋ねてきた。いすに座り、私がどのような病状ですかとおじいちゃんに尋ねると、なぜかおじいちゃんは答えなかった。2、3回質問しても答えてくれないので困っていると、担当者が私たちのところに来て、おじいちゃんに、「今日はどうしたの。いつもみたいにまた肺が痛くなったの。それとも、他にどこか痛いところはある?」と、おじいちゃんに寄り添いやさしい声で質問をしていた。無事におじいちゃんの問診表の記入が終わった後、担当者は私にこう言った。

 「お年寄りの方は自分の病気をうまく説明できないことが多いの。だから、私たち医療関係者が誘導してあげて、重大なことを見逃さないように注意して患者さんの言葉を聞くの。単なる会話が、医療においてはとても大切なことなのよ。」

 医師という職業は、患者の怪我や病気を治療することが一番の目的であり、それさえできれば医師として一人前だと思っていた。しかし、患者とのコミュニケーションを通して些細な変化や患者の伝えたいことを読み取ることも医師の大切な仕事なのだと知った。

 その後、内科や外科、リハビリセンターなどの部署を回るなかで、私は医師の仕事内容を見つつ医師と患者がどのようなコミュニケーションをとっているか、どのように接しているかに注目して医師という職業を体験した。

 最終日、私は3日間病院を案内しサポートしてくれた担当者の方にインタビューの時間をいただいた。その方は医師として勤務しているが、学生に医師という職業を知ってもらうために忙しい合間をぬってインターンシップの担当を希望したという。私はインタビューの最後に「医師にとって大切なことは何ですか。」と質問をした。

 「医師という職業は、命を救い守ることが仕事。でも、治療だけに一生懸命になってはいけないの。相手が子どもであれ、お年寄りであれ、先入観を持たず、言葉のキャッチボールをすることが大事。忙しい毎日で何で医師になったんだろうって考えることもよくある。でも、『患者さんに生きる力を与えられる医師になりたい』という原点に戻ると、これから進むべき医師としての道がわかるの。悩んだときは原点に戻りなさい。そうすればきっと答えはみつかるから。」

 この3日間で私は医師に対する職業観が確かに変わった。患者さんの笑顔のそばにはいつも医師の笑顔があり、会話があった。高校生の今、医師に向けて勉学に必死だが、しっかりと医師という職業人に向き合うことも大切だ。医師を目指し成長していくこの瞬間こそが私の医師の原点であり、悩んだときはいつでもここに戻ってきたい。


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