群馬県立利根実業高等学校 3年

大 津  泰 智
 

攻めなければ絶対に勝てない!
 
 「ハーッ、ハーッ、ハーッ……。」

 お互いに疲れて動きが止まり、大きな息づかいだけが道場に響き渡ります。

 相手よりも一瞬早く動いて小手を払い、空いた空間に飛び込み面を打つ。審判の旗がきれいに3本上がりチームは勝利。相手は自分よりもはるかに格上の選手でしたが、攻めの剣道で勝ち取った勝利だったのです。

 私は中学1年生から剣道をやっています。試合にも出られるようになり、剣道に熱中するようになると、なぜだか試合で勝てなくなるのでした。

 そんな時に、顧問の先生に呼び出されました。

 「守っていてはダメだ。攻めなければ絶対に勝てない!」

 負けたくない思いの高まりから、いつの間にか守りの剣道になっていたのです。

 そして、現在、高校で剣道部の部長として、私は攻めの剣道を実践しています。

 私の家は群馬県の北部、沼田市白沢町で観光イチゴ園を経営しています。グルメ番組や旅番組で取り上げられることもたびたびあり、首都圏からわざわざうちのイチゴを目当てに来るお客さんもいるほどです。経営は比較的順調にいっています。

 イチゴは農業の中では成長部門だといわれていますが、実際には生産は下降傾向にあります。労働集約的で腰をかがめた長時間労働のために、後継者がいないからです。その欠点を補うために、高い位置に設置された水耕栽培による規模拡大が行われていますが、水っぽいイチゴになるという欠点があります。

 私の家は昔ながらの土壌を使った栽培で、おいしさを追求しています。イチゴを甘くするためには水分抑制が必要ですが、花芽の減少を誘発しがちです。水分管理には細心の注意が必要なために、急激な規模拡大は困難なのです。

 農業では今、TPP合意が大問題になっています。アメリカは世界のイチゴの30%を生産するイチゴ大国です。また、中国はアメリカ以上の生産国だと言われています。これらの国から大量のイチゴが輸入されることは間違いありません。

 外国から、安価であるものの安全性に問題のあるイチゴが輸入されます。それならば、高価ではあっても安全性と食味に絶対的に勝るイチゴで対抗するしか勝ち目はないのです。

 「攻めなければ絶対に勝てない!」。中学生の時に剣道部の顧問の先生に言われた言葉が頭の中で響きわたります。

 私の家で栽培するイチゴ、「やよいひめ」は群馬県が9年間をかけて自信を持って作り上げた品種です。名前のとおり、一般的に品質が低下しやすい3月に収穫最盛期を迎え、大玉で上品な甘さがあり、しっかりした歯ごたえがあるために輸送性が高いという特徴もあります。

 私は高校で酵素液の研究をしています。ヨモギなどの薬草や成長が著しいタケノコなどの酵素の多い植物に黒砂糖を加えて発酵させるのです。酵素液をイチゴ栽培や堆肥作りに使い、さらに高品質なイチゴ生産を目指します。

 私の最初の目標は群馬県の品評会で優勝することです。

 そして、その後に攻めの農業を展開します。その計画の第一歩として、大手ハンバーガーチェーン店と契約してレタスを出荷し、コンニャクなどで6次産業化にも成功している「グリンリーフ株式会社」で研修を行いました。すぐ隣の昭和村で年間40億円を売り上げ、海外にも販路を広げている挑戦的な企業です。

 私は日本だけでなく中国への進出も視野に入れています。現在、日中関係はとても悪化していますが、中国市民は日本に対してとても友好的なのです。3億人いるといわれる中国のブルジョワ階級層は特に親日的で、日本の農産物も非常に人気があります。彼らの住む都市部では、日本と同様にITや冷蔵宅配システムまでもが充実しています。中国への進出は決して不可能ではありません。

 農業は衰退産業ではないのです。努力すれば夢は叶うと考えるほど、私は子供ではありませんが、夢に近づくことは絶対にできると信じています。

 「攻めなければ絶対に勝てない!」。この言葉を胸に刻んで私は勝負します。


[閉じる]