武蔵野東高等専修学校 2年

朝比奈  更 紗
 

一度の出会いで知ったこと
 
 東京の代々木駅で、友人と待ち合わせをしていた時のことです。友達の乗っていた電車に遅れが出て、10分ほど待つことになり、改札の近くで寄りかかって立っていました。

 すると、ある外国人に声をかけられました。簡単な英語の会話なら話せると思い、耳を傾けると、どうやら英語ではない言葉だったのです。私は一瞬戸惑いました。幼稚園から英語の時間があり、また中学まで英会話教室に通っており、そこでは英語しか話すことができません。

 私はその外国人に「英語か日本語か、どちらかが分かりますか」と英語で尋ねると、「英語は少しだけ、日本語は全く分かりません」と英語で返ってきました。そして「川崎に行きたい」と片言の英語で一生懸命訴えてきたのです。

 切符を買うところまでどうにか案内ができたのですが、代々木から川崎へ行くには、品川で山手線から京浜東北線に乗り換える必要があります。英語がきちんとその外国人に伝わるかどうか分からない状態で、この人が目的の川崎に着くには何と言えばよいのだろうかと脳をフル回転して考えました。

 その結果、私は路線カラーを利用して、紙にアルファベットでかくという答えを引き出しました。代々木駅では緑色の山手線で渋谷・品川方面に乗り、品川駅でスカイブルーの大船行きに乗る、という案です。

 私も戸惑っていたため、正しい英語で教えられたかどうか分かりませんが、その外国人は何度も何度も私に「グラッチェ」と言い残し、改札の中へ入って行きました。「あゝ、イタリア人だったのか」とようやくそこで落ち着いて考えることができました。

 その外国人がきちんと川崎に行けたのかどうかは分かりません。知りたくても、知る方法がありませんので諦めていますが、正直、今も気になっています。

 今まで外国人に道を聞かれることや、ゲームセンターにあるプリクラなどの使い方を聞かれ、英語で答えたこともありました。外国人に聞かれる時は、大体、英語かもしくは頑張って練習したであろう片言の日本語でした。

 そのようなことが多すぎて、これまでは日本語と英語ができれば大丈夫と思っていました。その考えを覆されたのが、あの代々木駅での外国人との出会いでした。

 東京オリンピック・パラリンピックが近づくにつれて、日本を訪れる外国人観光客はますます増えていくことでしょう。もちろん、英語や日本語の通じる外国人が多いと思いますが、今回の出来事のように、英語や日本語では通じないケースもあるはずです。

 その時、代々木駅でのように、焦って本当にお役に立つことができるかどうか、大変疑問です。何かもう1つ、自信をつけておく方法はないものでしょうか。ここがおもてなしの“分かれ道”になるような気がします。

 多くの国の言葉を話せるようになる、ということは至難の業で、到底私には夢でしかありません。でも「外国人の言葉を聞いた時に、何語かを判断し、これに的確に対応できるようにする」という目標を掲げようと思います。可能な限り、多くの国の言葉に接する機会を設け、そこから得た国際感覚を武器に、日本を訪れる外国人の役に立てる人間となるよう努力していきたいと思います。

 グローバル化がさらに進展し、5年後の東京オリンピック・パラリンピックが開かれる時、私は22歳になっています。その時“おもてなし”の心で外国人を迎えることができるかどうか、いま17歳ですからまだ時間は十分にあります。その“出来ること”を1つ1つ確実にクリアしていこうと考えています。

 このような考えを持つきっかけを作ってくれたイタリア人の女性に感謝の思いを込めて「グラッチェ」!!。


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