群馬県立利根実業高等学校 2年

焉@橋  亮 介
 

邪魔ものを宝に
〜狩猟によって地域の活性化を目指す〜

 
 青空に響き渡る銃声とともに、飛び散る血しぶき。そして、無残にも失われる1つの命。あまりにも残酷なその光景に、思わず目を背けそうになりました。

 「目をそらすな、脳裏に焼き付けろ!」

 何回も自分に言い聞かせ、目を見開きました。

 私は将来、山で野生動物を捕る狩猟を生業にしようと考えています。そのために、猟友会の会長さんにお願いして、ワナにかかったイノシシを銃で殺処分する現場に立ち会わせて頂きました。

 私の家は群馬県北部の川場村で8haを栽培する、地域では最大級のコンニャク専業農家です。

 コンニャクの安定生産のためには土壌消毒が欠かせません。塩素を土壌に注入してマルチで被覆してガスによって土壌消毒します。しかし、野生動物がマルチの上を歩いて穴を開けると土壌消毒にムラができてしまうので、電気牧柵で圃場を囲みます。設置の手間や費用は莫大です。

 動物が中に入ると出口を探して走り回るので、マルチが穴だらけになってしまいます。獣害対策は私の家にとって最大の課題なのです。

 川場村は「農業+観光」を掲げ、地域活性化を図っています。その中心となる「田園プラザ川場」は全国有数の道の駅となりました。年間180万人、休日には2万人も訪れる群馬県有数の観光地です。平成初期までは過疎地域の指定を受けていたのが信じられないほどの活気にあふれています。

 村の総面積の87%を森林が占めていますが、十分な手入れがされておらず、山は荒廃しています。そこで、村は新たに森林の活性化対策を政策展開としました。山間地にとって森林の活性化こそが地域作りの基本なのです。

 利根沼田森林組合は川場村にあります。私はそこに就職し、山を守る活動をします。3回の現場実習では枝打ちや下草刈りなどを体験させて頂くと共に、山を管理し守っていくことの意義を教えて頂きました。

 私の趣味は釣りです。大物が釣れたときの快感は言葉にできません。

 「もっと大物を捕りたい。」いつもそう考えていました。そして今では、狩猟に興味を持つようになり、将来は狩猟を是非やりたい。そして、生涯の職業にしたいと考えています。

 全国の農村が野生動物の被害に苦しんでいます。野生動物は本来、山に生息し、ドングリなどを食料としていますが、スギの植林により山は食糧不足となってしまいました。野生動物はエサを求めて山を降りて畑を荒らします。また、猟師の減少も獣害増加の大きな原因です。

 村では昭和30〜40年代に植林したスギが伐採期を迎えています。そこで、狩猟に適した谷を選び、ブナやカシなどのドングリを付ける広葉樹に植え替え、野生動物をドングリで集めます。そして、谷に動物を追い込み3方向から狙い撃ちをして、安全に確実に捕獲するのです。

 私の家は兄がコンニャク農家を継ぎますが、獣害対策は欠かせません。里山の獣害対策は村の中心産業である農業にとって不可欠なだけでなく、村の重要産業である観光にとっても欠かせないのです。

 狩猟した野生動物は利用方法がないために廃棄処分をしています。有害動物とはいえ、命をムダにすることはできません。世界的な健康志向の高まりから、現在は野生動物を調理した「ジビエ料理」が大人気で、東京では信じられない高額で提供されていると言います。

 田園プラザは主に首都圏の富裕層を対象としています。本物のジビエ料理を受け入れる下地があるのです。そして、田園プラザの新たな集客の柱として育てていきたいのです。

 私は森林組合と狩猟の2足のわらじの生活をしていきます。山で木を切り野生動物を捕る、昔の山の生活です。そして、次第に軸足を狩猟に移していきたいのです。今ではなくなってしまった、猟師を職業として復活させたいのです。

 狩猟によって農業を守り、山に就業機会を作り、そして、観光の活性化を目指します。

 農業と観光と林業を中心政策とする川場村ならできる。川場村だからこそできる。そして、私にならできる挑戦です。


[閉じる]