関西テレビ電気専門学校高等課程 1年

植 村    蓮
 

一個のメロンパンから
 
 そのメロンパンは外がカリッとしていて、外と中の間はサクッと、中はフワッとした3つの食感が味わえるメロンパンでした。

 そのメロンパンを作っていた人は私が住んでいた近所の小さなパン屋さんでした。そこのパン屋さんは路地をちょっと入り込んだ所にあったので、いつも家族で行くときはどこか得した気分を味わっていました。

 その小さなパン屋は、おじいさんが一人で切り盛りしていました。

 でも、そのおじいさんは目と足に障害を持っていました。それでもおじいさんは「皆の笑顔が見たいから」と言いながら、楽しそうにパンを作っていました。

 この人が私の理想とする職人さんです。私はこのおじいさんに出会い、このおじいさんのパンを食べて、パン職人になろうと思いました。

 でも、私には心配や不安要素があります。それは、自分の体調のことです。私は、難病指定されている50万人に1人の病気である「若年性関節リウマチ腱付着部炎型」という病気にかかっているのです。この病気は、今の医療では治せないので、一生この病気と一緒に生きていかなければならないのです。

 もし、この病気が悪化して動けなくなったらどうしようと考えた日もありました。でも今は、病状もだいぶ落ち着いているので安心しています。これが唯一の不安や心配ですが、「何事もやってみないと分からない!」と思い、あきらめることなく、パン職人になる夢を抱き続けています。

 パン職人になるため、努力していることがあります。それは、勉強と体調管理です。

 勉強は、主にパンについてです。

 簡単な事しかしていませんが、一つのパンにどのくらいのカロリーがあるか、パンを一つ作るのにどれだけ時間がかかるのか、発酵時間はどのくらいかかるかなど、インターネットで調べています。またパン屋を見つけたら、一つメロンパンを買って食べてみるようにしています。店により食感・味・形がさまざまであることに気づかされ、メロンパンと一口に言っても、実に奥が深いと実感しました。

 体調管理は、主に風邪などの感染症やウイルスなどの予防です。私の場合、免疫を抑える薬を飲んでいるので、家に帰ったら手洗いやうがい、アルコール消毒など、できることはやっています。あと、風邪などにかかってしまったら服用している薬が飲めなくなるので体調管理には全力を注いでいます。また、どこまでなら、負担がかからないかなども考え、自分の限界を見極めるようにしています。

 このように私は病気を抱えているので、普通の人のようにまっすぐきれいな一本道で行けるとは思っていません。どんなに困難で険しくても、私はあきらめません。挫折は、絶望ではなく希望だと思っています。挫折があるからこそ、夢を叶えられると私は思っています。

 あのおじいさんも片目はほとんど失明に近い状態、片足はひきずっていました。パン屋を開く前、戦時下で、壮絶な人生を送られたそうです。挫折の連続だったことでしょう。それでもおじいさんはいつも笑って、いつもおいしいパンを作ってくれていました。私にとってそのおじいさんこそが目指すべき人です。尊敬している人です。

 今後、私は何を目標にしていくのか、それはただ一つです。おじいさんを目指して生きていきたいです。この先、10年後、20年後、30年後、私はおじいさんみたいな素晴らしい人になりたいです。障害を持っていても、いつも笑顔を絶やさずに、お客様に微笑みかける人に。そしてお客様に作ったパンを「おいしい」と言っていただけるような、小さくても温かみにあふれた店を作りたいです。

 だから、私はこの病気にかかったことを後悔していません。これが、私の人生だというなら、まっすぐ進んで、強く生きるだけです。

 あの、おじいさんのように。


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