神奈川県立横浜清陵総合高等学校 3年

小 林  美 結
 

アルバイトが教えてくれた自分の役割
 
 「あなたが来てくれてお店は変わったよ」

 ある日アルバイト先の先輩から掛けられたその言葉に、私は心がふっと軽くなりました。

 私が今アルバイトをしているのは都内にある写真店です。1年半前におしゃれな店内に惹かれ初めて訪れた日から、しばらく私はただの常連客の1人でしかありませんでした。それが今では店員として、お客さんに愛される写真店を作っていく側になっています。

 当時アルバイトの経験も無かった私は、漠然とこんな素敵で大好きなお店で今から働けたらいいなと足を運ぶたびに考えていました。しかしホームページのスタッフの募集要項にある「対象は大学生以上」の文字に、高校を卒業してからだなあと半ば諦めていました。正直、働くなんて夢のまた夢というのが本心で、せっかくアルバイトをするなら遅くなっても好きなところがいいというのが私の考えでした。

 働いてみない?と店長に声を掛けられたのはそれから少し経った日のことです。今考えてみればそれはスカウトでした。そうやって私の初めてのアルバイト生活は始まったのです。

 初めてのアルバイト、周りは大人ばかりで高校生は1人だけ。ですが私はなにより写真を撮ることと人と話すことが自分にとっての楽しみであり、その上働けるのは同じく通い詰めるほど大好きなお店です。好きなことをして好きなところで働ける!それだけで十分すぎるくらいの幸せを感じていました。

 正直初めは戸惑うことも多く、社会のルール一つ取っても知らないことばかりです。そんな中でも先輩達は私の意見を大切にしてくれました。場所柄、中高生の来店も多い店であり、店内の商品の配置やそのアプローチの仕方についても、私なりの高校生の目線で見ることが必要です。そうやって出した意見を丁寧にくみ取ってもらえたことが、些細ながらも仕事に対する初めてのやりがいになっていきました。

 しかしだんだんと店員として店頭に立つことが怖くなってきたのは、働き始めて3か月が経った頃です。接客の流れも知り、てっきり仕事にも慣れると勝手に思い込んでいました。そのはずが毎回同じようなミスばかり。それもレジの打ち間違いなど初歩的なものすらです。お客さんに対する臨機応変な対応ができずに自信が無くなるばかりでなく、店頭から離れがちになり、隙あらばお店の内側に身を隠すようにさえなりました。私は唯一の高校生でもっと特別な待遇のはずなのに!と、いつしかそんな思いも募り始めます。それだけ当時の私は周りに甘えていました。社会で働いているという自覚もなく、ただ特別な立場に置かれ必要とされたいという気持ちが大きくなっていたのです。

 そんなときに先輩に掛けてもらった言葉こそ、「あなたが来てくれてお店は変わったよ」のその一言でした。はっとして店内を見渡すと、確かに最初訪れたときよりも格段にカラフルな商品が増え、目を引くポップもいたるところに置かれています。どれも以前に私が改良点として意見したものでした。なにより店内にいる同年代であろう女の子たちの楽しそうな姿を見て、ようやく自分の与えられた役割に気付いたのです。

 私の理想とする職業人、それは自分に与えられた役割を知り、それを全うできる人です。そして今の私の役割は、高校生という立場を活かし、お客さんの目線に立った提案を積極的にしていくことです。ですがそれだけではありません。接客やレジ打ちなどの基本的な仕事をこなし、お客さんに快適に過ごしてもらい、お店をスムーズに回転させることこそが、お店にとって大切なのだと気が付きました。そういった仕事の基本姿勢をしっかり持った人だけがそれ以上の役割を与えられるのであり、それを高校生にして与えてもらえたことはとても幸せなことだと思っています。だからこそ、今の恵まれた環境に感謝し、社会で働いているという自覚や誇りを持ってこれからも店頭に立っていきたいです。


[閉じる]