静岡県立田方農業高等学校 3年

内 田  成 美
 

伊豆月ヶ瀬から笑顔を届ける
 
 「人が来ない…。」

 そんな母の嘆きを初めて聞いたのは、中学2年生、2月の終わりの頃だった。

 母の働く伊豆月ヶ瀬梅組合では、毎年2月の終わり頃から、所有する山にある6・2ヘクタールという広大な土地を利用した梅祭が開催される。1500本もの梅の木が棚田状に植えられ、開花のピークを迎えると山の一角が鮮やかなピンク色に染まる。遠目から見ると緑色の山にピンク色の絨毯が敷かれているようで、満開の梅の下を歩くと爽やかな甘い香りが鼻をくすぐる。そんな伊豆月ヶ瀬梅林が幼い頃から大好きだった。

 幼い頃はよく祖父母に連れられ遊びに行き、小学生になると学校行事としても、毎年この梅林へと足を運んだ。そんな思い入れのある場所だからこそ、母の「人が来ない」という言葉は他人事には聞こえなかった。

 「少しでも多くの人に梅の魅力を知ってもらいたい、一度でも梅林へ足を運んで欲しい、そう思った私は、梅を利用した商品、人目を引き、月ヶ瀬をアピールできるような商品を作りたいと考えるようになった。そのために私は、食品の加工方法や加工技術、食品の栄養などについて広く学ぶことができる田方農業高校への入学を決めた。商品開発という目標を持ち、入学してから3年、様々な実習、実験に取り組む中で多くのヒントを得た。それと同時に食の意味・大切さを学んだ。

 高校1年生の授業では、作物を育てることの大変さを知った。年間を通して野菜を育てる授業では、害虫による被害や雨風による被害、植物を育てるためには数々の試練を乗り越えなければならないことを身を持って知った。それにより小さな梅の実一つを育てるにしても、たくさんの人の手が加えられていることを知り、それほどまでに大切に育てられている梅のことをもっとたくさんの人に知ってもらいたい、と商品開発への思いがより一層強くなった。

 高校2年生、より専門的な授業が増えた。食品製造の授業では、商品として販売するために、うどん作りについて学び、何度も繰り返しうどんを作った。様々な種類の粉を使い、試行錯誤しながらうどんの生地を作っているうちに、「なぜこんなに大変で辛いことをやらなくてはならないのだろう」と思うようになっていた。そんな時、ある先生の「うどんで生計を立てている人もいる」という一言でハッとした。商品となるものを買う人が、お金を出す価値があると思わなければ作り手は収入を得られず生活は成り立たない。たかがうどん、されどうどん、商品を開発し販売するということは生半可な思いでできないと思うと同時に、必ず地域を活かす商品を作ろうと決意した。

 食品製造の授業では、他にも果実の加工、大豆の加工など農産物の加工法を学び、また微生物の授業でも発酵について学んだ。これを、梅に活用し応用できないか。いろいろと挑戦し、2年生の時にたくさんのヒントを得ることができた。

 そして3年生、私は課題研究で梅について効能や成分を追求し、実験を通し殺菌効果を調べている。高校で、より深く梅の魅力を知り、梅の価値、加工の大変さを知ったからこそ、それらを活かし、将来は地元の食品企業に入り、商品開発に取り組んでいく。また、その魅力を地域の方々へ伝えていき、地域の人たちが一丸となって、みんなで協力し合い、私の住む月ヶ瀬という地域を今以上に盛り上げる。私たち若者がその原動力になる時だと思う。

 多くの人たちで賑わう梅祭を呼び戻し、地域を活性化させる。伊豆月ヶ瀬が梅の花のように明るく朗らかな笑顔の人が行き交う、そんな賑やかで温かい町にしていくことが私の目標となった。


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