富山県立高岡工芸高等学校 3年

田 邊  夕 佳
 

身近にあふれる伝統工芸
 
 私が生まれ育った富山県高岡市は、鋳物や漆器など、「ものづくり」が盛んな街です。高岡漆器は、藩主前田利長公が高岡城を築城する際に、武具や箪笥、膳など日常生活用品を作らせたのが始まりとされています。昨年ユネスコの世界文化遺産に登録された「高岡御車山祭り」でも漆の技法をふんだんに用いた豪華絢爛な山車を見ることができます。

 高岡市の小・中学校には、全国で唯一「ものづくり・デザイン科」という変わった授業があります。これは高岡の歴史や伝統工芸、産業の特徴を知るための独自の必修教科で、5・6年生と中学1年生が学ぶことになっています。私が最初に「ものづくり」に興味を持ったのは、この授業がきっかけでした。鍛金で銅板の表札を作ったり、ロストワックス法で錫(すず)のプレートを作ったり、オルゴールの天板に色漆で絵を描いたり、螺鈿(らでん)細工の丸盆を制作したりしました。細かい作業でしたが、私は螺鈿細工の繊細で美しい風合いに魅せられ、伝統工芸の技を受け継ぎたいと真剣に考えるようになりました。高岡漆器の魅力を国内外問わず多くの人に知ってもらい、生活の道具として使ってもらうことが私の夢です。

 私は高岡工芸高校工芸科漆工芸コースで、ものづくりの基礎から螺鈿細工、蒔絵、卵殻彩漆など、漆工芸のさまざまな技法を学んでいます。2年生の時には地元の漆器制作会社で就業体験をさせていただきました。漆器といえば丸盆や文箱、茶碗などをイメージしがちですが、その会社ではストラップやかんざしなど若者が気軽に手にすることができる実用性の高い商品の開発・制作に力を入れていました。私はそこで奇しくも「ものづくり・デザイン科」の授業のお手伝いをさせていただきました。1週間という短い期間でしたが小・中学生にわかりやすく丁寧に、楽しく技術を指導することは大変でしたが、やりがいのある貴重な経験になりました。

 現在私は3年生になり、進路選択に頭を悩ませています。自分の好きなものづくりの道を一生の仕事にしたいと思うものの、働く場所がありません。高価で手入れが大変な伝統工芸品の需要が減り、それを制作する会社も技術者もどんどん減ってきているのが現実です。このように厳しい状況の中で、私は技術職だけではなく、今まで学んできたことを活かして、高岡の伝統工芸品の魅力を広く世界に発信するとともに、制作体験ができる工房を手伝うなどして地場産業盛り上げていきたいと考えています。一昨年北陸新幹線が開業し、高岡の街で外国人観光客の姿を見る機会が増えました。外国の方は日本人以上に日本の伝統文化に興味を示し、本当によい品物を手にする方が多いと聞いています。高度な技術で繊細で美しい細工を施し、空間の美とみごとに調和した高岡漆器や銅器は私たちの誇りです。その伝統が途切れることのないよう、その技術を次の世代に引き継いでいくことを真剣に考えていかなければならないと思います。伝統工芸品は、高価で手が出しにくいというイメージがあります。また、時代の変化とともに私たちの嗜好や生活スタイルもどんどん変化しています。これからは型にとらわれない柔軟な発想で、安価で実用性・デザイン性に優れた商品、現代の生活スタイルや若者のニーズに応じた商品の開発に力を入れていかなければ、伝統工芸の生き残る道はないと考えています。

 私の夢は、地元高岡の伝統工芸の技術を継承し、その魅力を広く長く伝えていくことです。そのためには多くの人と交流し、全国の取り組みを学び、高岡ならではの方法を提案し、実行していきたいと思います。「ものづくりの街高岡」が、かつての賑わいを取り戻す日が来ると信じて。


[閉じる]