高崎健康福祉大学高崎高等学校 2年

秋 山  瑞 希
 

言の葉と生きる
 
 チックとタックは時計の中に住んでいる、いたずら好きなこどもです。ある日、2人はおじさんが残した御寿司をこっそり食べてしまいます。しかし御寿司には、わさびがたっぷり塗ってあって…。

 小学校に入ったばかりの頃、公民館の読み聞かせ会で聞いた、「チックとタック」という童話の内容です。軽妙な語り口に笑い転げたことを今でも覚えています。

 不思議なお話、夢のあるお話が大好きだった私は、この童話がとても気に入り、もう一度自分で読んでみたいという思いから学校の図書館で探したのですが、見つかりませんでした。母と一緒に本屋さんにも行ったのですが置いてありません。そして最後に訪れたのが市立図書館でした。

 受付にいたお姉さんに尋ねると、すぐに探してきてくれて、「この本、私も好きなの」と笑顔で貸し出しの手続きをしてくれました。それ以来、その図書館に行って本を借りるのが大きな楽しみとなりました。

 大人と話すのが苦手だった私ですが、図書館のお姉さんとは不思議と気軽に話すことができ、定期的に開かれていた、お話会にも参加するようになりました。お姉さんが読んでくれる時は、私に目を合わせてくれているような気がして、とても嬉しく誇らしい気持ちになったものでした。あの頃培った本好きの魂は、その後もすくすくと育まれ、私は本の中の世界で戯れる束の間を、最良の時とする高校生になりました。

 私の将来の夢は司書になることです。色々な職業に憧れる時期もありましたが、司書の仕事は子どもの時から、就きたい職業の真ん中にあった気がします。幼心に描いた、お姉さんのような図書館職員になるという想いは、変わることは無かったのです。

 図書館の仕事は多岐に渡ります。本の貸出、返却業務はもちろんのこと、困っている人に、求める情報が載った本や資料を提供するレファレンスサービスなどは、花形の業務です。私が司書を目指したのは、子ども達に本の楽しさを伝えたいという思いからです。かつて私がそうであったように絵本の読み聞かせイベントなどを通じて、多くの子ども達に本の素晴らしさを知ってもらいたい、本を好きになってもらいたいと思っているからです。

 高校生となり職業としての司書について真剣に調べたとき、大きな図書館などに就職するのは、非常に狭き門であることが分かりました。しかし、それは私の中で司書という仕事を諦める理由にはなりませんでした。街には図書館があり、そこで活躍する方がたくさん居るのですから、司書になりたいという確固たる想いさえ持ち続けていれば夢は必ず実現すると信じているからです。

 私がこの夢をかなえる為に、司書の資格を取得することは当然として、今以上に国語の勉強に力を入れて、本当の日本語力を身につけたいと考えています。私が考える本当の日本語力とは、文章や会話の内容を正確に理解し、論理的に考察した結果を、自分の言葉で的確に表現できる能力です。多くの人に、言の葉の楽しさ、美しさを伝え説く、語り部となれるよう、国語についての専門的な分野を学べる学校に進学し、一歩ずつ歩んでいきます。私にとって司書になることは、あくまで夢の途中であり、夢の終着点は司書としての仕事を通じて地域社会に貢献し、一隅を照らす人間となることなのですから。

 そうそう、読み聞かせの勉強もしたいですね。あの日聴いたユーモラスな濁声を私も練習してみます。

 「けさになってボンボンとけいのおとのわるいこと/ヂッグ、ダッグ、ヂッグ、ダッグ/きっとゆうべのわさびがきいてのどをからしたんですよ」

 いつか私の読み聞かせで、子ども達の笑顔が部屋いっぱいに広がることを夢見て頑張ります。話を聞いてくれた子ども達が、私のことを忘れてしまっても構いません。私が伝えた言葉で、小さな心に、未来を指し示す淡い光が灯ってくれたなら、これ以上嬉しいことはないでしょう。


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