長野県松本蟻ヶ崎高等学校 3年

諸 橋  玲 佳
 

大切な言葉を胸に
 
 人間関係につまずいた小学5年生の時。年頃なので担任の先生や家族に相談するのが恥ずかしく、ずっと苦しかった。学校がとても嫌いになった。そんな時一人のカウンセラーの先生に出会った。その方が私の理想とする職業人だ。

 ある日の休み時間。私は今まで行ったことのない棟へ行った。その時、たまたま目にしたものがあった。「秘密は守ります。気軽に来てください。心の相談員。」いつもなら素通りしてしまうだろう。しかし、気付いた時には体が自然とその部屋の扉を開けていた。

 「こんにちは。」声のした方を見ると、優しく笑う女の先生がいた。その笑顔を見た瞬間「この人なら話せそう。」と感じた。席に着いた時に初対面にもかかわらず、自己紹介もせず辛くて苦しい胸の内を話した。一か月前から突然無視されるようになった。自分の悪口が常に耳に入ってくる。とにかく話した。自分でも制御できないほど話しているのに、先生は優しく私の話を聞いてくれた。どれくらい話をしたか覚えていないが、かなり長い時間だった。話し終わった時、先生は「よく話してくれたね。頑張ったね。」とひと言、いってくれた。その瞬間涙があふれた。やっと話すことができた。SOSを自分から出せたことに気付いた。この出来事があってから、ほぼ毎日先生の所へ行った。学校が嫌いで行きたくないと思っていたが、その先生に会えるならと思うと学校が少し苦ではなくなった。

 そして中学生になった。その先生は中学校にもいた。私は相変わらず先生に会いに行った。どうでもいい話でもいつも笑顔で聞いてくれた。私にとってとても嬉しかった。いつも話を聞いてくれる先生だったが、私が中学2年生の時、先生は私にある言葉をかけた。「やり遂げたいことをやり遂げた思い出は一生の宝。だから、玲佳ちゃんがやりたいと思ったことを全力でやってみて。一生の宝になるから。」その時は軽く受け止めた。そしてこの言葉をかけてくれた年に、先生は退職された。

 そして中学3年生。高校受験を考えるようになった。高校は地元でいいと考えていた。そんな時、あの言葉を思い出した。「やり遂げたいことをやり遂げた思い出は一生の宝。」と。この言葉が頭を駆け巡っていた。先生のいない今はその言葉が自分の中で大切なものに変わっていった。

 「高校は一から友達を作ろう。それが私の今やり遂げたいことだ。」そう思い、今の学校へ入った。誰も知り合いのいない環境に緊張した。人見知りで初めは自分から話せなかったが、みんなが話しかけてくれたおかげで自分からも話せるようになった。他愛のない話から共通の趣味の話まで、できるようになった。そして「師匠」というあだ名がついた。初めのうちは戸惑ったが、今ではそう呼んでくれることが嬉しくなった。楽しくて愉快な仲間がいる。中学3年の自分、私は素晴らしい友達に恵まれたよ。あと少しの高校生活。目標はやり遂げそうだ。この気持にさせてくれたのも先生のおかげである。それは確実だ。

 現代ではいじめで自殺をする子どもが後を絶たない。彼らの心の花が枯れきった時、自殺という手段に出てしまうと私は考える。そうなってしまう前に彼らの心に水を与えたい。きれいな花を咲かせたい。私を救ってくれた先生のようなカウンセラーになりたい。

 SOSを出すことは簡単ではない。でも、「この先生にならSOSが出せそう。」と思ってもらえるカウンセラーになりたい。みんなの心に寄り添える『みんなの心の相談員』でありたい。これが私の理想とする職業人だ。

 今、私がやるべきことはカウンセラーについて情報を集め、一生懸命勉強すること。そして、仲間と過ごす高校生活が「一生の宝」だと胸を張って言えるような生活をすること。これが証明されたとき、夢に繋がる自信になるはずだ。

 先生がかけてくれた言葉を胸に、私は理想とする職業人になる。


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