群馬県立利根実業高等学校 3年

中 村  め ぐ み
 

ヒマワリのような保育士に
 
 ミーンミンミンミンミー…。

 保育室の隅にぽつんと取り残された私に、セミの声が重く降り注ぎます。

 私は幼い頃から人見知りで、自分から人に話しかけることができなかったために、部屋の片隅でいつも一人でお絵かきをしているような子どもでした。両親の仕事の都合で、土曜日にも私は保育園に預けられていました。静まりかえった保育園は、ひとりぼっちの私をより孤独にしたのでした。

 「めぐみちゃん、お外のお花はね、ヒマワリって言うんだよ。」

 先生は園庭のヒマワリを指さして言いました。

 「ここに咲いている全部のお花はね、みんなこっちに顔を向けてお話をしているんだよ。ヒマワリは、“いつもめぐみちゃんを見ているよー。”って言っているよ。」

今にも泣き出しそうな私に先生は笑顔で話しかけてくれました。明るくて黄色い太陽のようなヒマワリは、私の心に小さな灯火をつけてくれたのでした。

 先生のその言葉に安心して涙がこぼれました。しかし、それは今までとは違う温かな涙でした。

 そんなヒマワリとの出逢いによって、花が好きになり、いつも人と目を合わせずに下ばかり向いていた私は、少しずつ前を向いて歩けるようになりました。

 ずっとひとりぼっちだと思い込んでいた私は、“花の持つ不思議な力”によって少しずつ笑顔になり、しだいに保育園に行くことが楽しくなって、友達を作ることもできるようになりました。

 それから約十年が経ち、現在私は地元にある農業高校で草花を中心とした学習をしています。授業では、草花の生態について学習をしたり、草花の栽培や、草花を活用した活動をしています。

 授業の中で花言葉を学習しました。ヒマワリの花言葉は「あなたのことを見つめている」。ふと、保育園の先生の言葉が甦りました。先生は一人ぼっちの私に元気を出してもらうために、ヒマワリの花言葉を使って励ましてくれたのでした。そして、あの先生に憧れを抱き、私は保育士になりたいと思うようになったのです。

 花の持つ不思議な力。私はその力によって変わることができ、将来の目標まで見つけることができたのです。

 人生の目標が定まり、高校では草花について多くの知識を身につけようと様々な活動に積極的に参加しています。地域の方々との連携のためのコミュニティーガーデンでの交流活動では、私の提案で草花に花言葉のプレートを取り付けていただきました。また、老人ホームでの園芸福祉活動では、花と触れ合うことで、お年寄りの方に命の輝きを与えることを身をもって知ることができました。

 高校2年次には、子ども達に花の持つ力を伝えたいという高い理想を持って、保育園で就業体験を行いました。しかし、元気に動き回る子ども達を前にすると、何をしたらいいのかわからず、ただ、部屋の片隅で茫然と立ちつくすことしかできなかったのです。その姿は保育園児の時の私そのものでした。

 「おねえちゃん。ハイ!」

 一人の女の子が四つ葉のクローバーを差し出してくれました。四つ葉のクローバーの花言葉は「幸福」。その子は花言葉は知らなくても、四つ葉のクローバーは人に元気を与える力を持っているのだと知っていたのでしょう。私は自分の無力さを嘆く以上に、女の子の優しさが心に突き刺さりました。

 「保育士は何てすばらしい仕事なんだろう!」

 保育士になるという希望はその時、決意に変わりました。

 花の持つ不思議な力によって心が開かれ、保育士を志し、さらに、決意を新たにすることができたのです。

 私の力は小さなものです。しかし、花が持っている力を借りれば、きっと大きな力を発揮できると私は信じています。

 私の一番好きな花はヒマワリ。ヒマワリのように子ども達をしっかりと見つめ、明るく希望に満ちた園児を育てることのできる保育士をめざして、私は歩き始めます。


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