岩手県立久慈東高等学校 3年

細 畑   鈴
 

福祉の糸
 
 「また絶対に来てね。」

 「あなたたちから元気をもらうよ。」

 私が通う久慈東高校は、3年前から岩手県宮古市の田老地区にある、田老サポートセンターで交流会を行っています。田老は「万里の長城」とも呼ばれた巨大な防潮堤があることで有名な地区でしたが、東日本大震災ではその防潮堤が一瞬にして破壊され、津波が町を襲い、死者・行方不明者は200名にも及びました。田老サポートセンターは、被災し、仮設住宅を利用する方々の生活を支援する場所です。

 久慈東高校には7つの系列がありますが、毎回介護福祉系列と他の2つの系列が訪問し、自分たちの系列の得意なことを生かした交流会を実施しています。私が所属する介護福祉系列は、セラピューテック・ケアというマッサージをしたり、新聞紙のエコバッグや押し花の栞(しおり)を作ったり、センター利用者のみなさんが大好きなものづくりを毎回企画しています。

 ある日の交流会で、利用者の方と一緒に「糸かけ曼荼羅(まんだら)」というものをつくりました。板に円形に釘を打ち付け、素数の番号の釘に糸をかけ、色を変えて何周も糸をかけていくことで素敵な模様ができあがるものです。

 小さなテーブルを何人かの利用者と生徒が囲みます。みんな笑顔で、時には大きな笑い声があがり、穏やかで幸せな時間が流れました。私は80代のAさんと一緒に曼荼羅を作りました。完成した綺麗な曼荼羅を見て、Aさんが話した言葉が印象に残っています。

 「一周目は一本の糸でよく分からないし、寂しい感じがしたけれど、いろんな色の糸が何本も重なると、こんなに綺麗な模様ができるのねえ。なんだか、これって人生みたいよねえ。生きてるってありがたいねえ。いつも来てくれてありがとうね、元気をもらっているよ。」

 交流会後、利用者のみなさんと別れ、系列のみんなで田老の町を歩き、震災遺構にも指定された「たろう観光ホテル」に行きました。ホテルの6階まで階段で上り、その部屋から撮影された津波の映像を見ました。ビデオに映った人たちはみんな、言葉にならない声を上げ、呆然と津波を見つめていました。目の前で何が起きているのか、誰も理解できていないようでした。ビデオを見終えて、窓から真っさらになった田老の町を見て、涙が溢れました。あの日どれだけ恐ろしいことが田老で起きていたか、どれだけ利用者のみなさんの心が傷ついているのか、笑顔の奥にはどれだけの痛みがあるのか……。交流会に参加される利用者の皆さんはいつも笑顔で、私たち以上に元気いっぱいに見えますが、時折、津波の恐ろしさ、家族のこと、今は一人暮らしであること……ぽつぽつと話をしてくれます。利用者の方が抱える思いを想像すると、胸が張り裂けそうになりました。

 田老のみなさんとの触れ合いを通して、私ははじめて自分が学ぶ「福祉」の意味を考えました。私が考える「福祉」とは、思いやりと助け合いが生む「幸せ」です。それを育むためには、傷ついている方の痛みに気づき、孤独を感じている人に寄り添うことが必要だと思います。そして、震災のように一人ではどうしようもないとき、「支える」「支えられる」その繰り返しが曼荼羅の糸のように重なっていくことで初めて、人は生きていくことができるのではないでしょうか。糸が途切れないように、何回でも重ねていけるように支援することこそが「福祉」ではないでしょうか。

 私は幸せを創りだしていく、日本の福祉を、そして岩手の福祉を信じています。命と命をつなぎ、誰にとってもかけがえのない明日へつなぐことができるような福祉を育むことが、私たち福祉を学ぶ者の使命です。誰もが彩り豊かで素敵な人生という模様をつくりあげられるよう、福祉の糸を張り巡らせていきたい。

 私がその一本の糸となることを、誓います。


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