横浜共立学園高等学校 2年

神 津  美 帆
 

未来をひらく
 
 「心に太陽かがやかせ 我こそ新しい未来をひらく」

 これは、東日本大震災で、津波により生徒と教師合わせて多くの犠牲者がでた大川小学校の校歌の一部である。

 私は震災後、2度大川小学校を訪れる機会を得た。ガールスカウトの活動で、横浜市内で東日本大震災復興支援のための募金をして、被災地の教育委員会に届けるプログラムの中にあったのだ。

 遺族の方が案内してくださった校舎の入り口に校歌の掲示があった。歌詞が一文字ずつ書かれた小さな正方形の木製のピースを繋ぎ合わせて、大きな校歌のパネルが出来上がっていたようだったが、半分以上のピースが津波に流されていた。それでも津波が鉄筋コンクリートさえ破壊してしまった中で、わずかに残った一文字一文字が、私達に亡くなった小学生や先生達の想いと共に「未来をひらくためにできることは何か考えて!」と呼びかけているようだった。

 被災地を訪れたことで、私の防災への意識は大きく変わった。それまでは震災をどこか他人事のように思っていたが、現地に足を運び、この目で惨状を見て、遺族の話を直接聴き、肌で空気を感じたことで、自分のこととして捉えるようになった。

 まず自分の避難用バッグを見直した。賞味期限が切れていないか。今の季節に合わせた物が入っているか。震災直後に避難用バッグを作り、そのまま中身を確認せず安心していた自分がいた。「災害は忘れた頃にやってくる」ということを常に頭において、定期的に見直しをしていこうと心に決めた。

 訪問後、大川小学校を案内してくださった遺族が立ち上げた「小さな命を考える会」の講演会にも参加した。「娘を亡くし、子供達は救えたはずだ」という悔しさと、同じ教師として、「亡くなった教師の後悔や無念さを思うと辛い」という二重の苦しみは、私には計り知れない。その思いを聴いた私達は、このような辛い出来事を二度と繰り返さないためにはどうすべきかを考えるバトンを手渡されたのだと感じた。

 「日頃から物事を判断する力」と、それによって「限られた時間を有効に使う力」をつけるために、多様な知識を得ることが今の私の課題だと気付いた。そこで防災士の研修を受けて資格を取得した。

 研修で学んだことのうち特に印象に残ったのは、災害時に起こりうる人間の心理と行動だ。人間は、今まで体験したことのない恐ろしい出来事や不安な出来事に遭遇した時、「大丈夫であってほしい」という願いから「きっとこのままでも大丈夫」と想定して、自分の気持ちを落ち着かせようとしがちであるという。加えて、恐怖で思うように自分の体も動かず、「まず、最善な方法を考えよう」と理由をつけて、その場に留まってしまうこともよくあるという。そのような思いに捉われて、判断を間違えないために、防災として心の備えも重要なのだ。

 これからも防災の知識を増やしていき、得た知識を忘れずにいることで、想定に捉われない力を養い、判断力を身につけていこうと思う。様々な体験を通し、見て、聴いて、感じることで、判断した上で自ら行動を起こす勇気と自信もつけたいと思い、防災に関する研修会やボランティアに積極的に参加している。

 被災した方々が現実と向き合い前を向こうとしている気持ちに、心から寄り添いながら、私も防災力を高めていきたい。

 一人の高校生の行動は小さい。それでも、一文字一文字を組み合わせて校歌のパネルが完成するように、私も未来をひらくその一ピースになりたい。


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