福井県立美方高等学校 3年

津 志 田  匠 太 郎
 

夢に向かって
 
 朝6時。大抵の人がベッドの上、起きはじめる時間。僕は桟橋をけり、水の上にいる。静水の湖に僕が漕いだ波紋だけが水面に残る。背中で風を受ける。氷の上を滑るかのごとく艇が水の上を進む感覚は一言で言うと気持ちいい。このボート競技で世界一になる。このスポーツの素晴らしさを多くの人に伝えたい。それが私の夢であり目標だ。

 僕はボートが好きだ。そしてボートで出会えた仲間は一生の宝だ。そう思う。ボートは日本ではあまり知られていない。いわば、マイナースポーツの一つだ。後ろ向きに進むボートでは、文字どおり前が見えない。見えないゴールに向かって漕ぐ。1位との距離が分からずともただ漕ぐ。シングルスカルと呼ばれる一人漕ぎボートで行われるU19代表選考では何とか代表候補入りすることができた。だが、結果は2位で、上に1人いる。体格や技術で劣っている気はしなかった。なぜ負けたのだろう。悔しさがこみ上げてくる。なにが足りないのだろう。そのときの僕には分からなかった。「何をそんなに考える必要があるのだ?」「もっと感じろ。」監督に言われた。余計に分からなくなった。どうすればいいんだ。

 そんな時、ユーチューブに流れてきた大谷翔平選手の動画を見た。プレー中、他の選手が気付くはずのないささいなことを気遣う神対応の動画。思わず心を打たれた。文句なしのホームランである。他の動画も見た。そしてどの動画でも大谷選手は笑顔だった。彼がバットを握ればホームラン。マウンドに立てば他のピッチャーに負けない投球。プレー外でも一流の紳士はとても楽しそうだった。他の人がやったことのないことをチャレンジしようとすることの勇気、野球に対する情熱があったからこそ、努力し一流になることができたのだろうと思った。

 それを知ってから僕は、一つ悩みが消えたような気がした。あのとき僕は、楽しいレースをしていただろうか。ボートを楽しめていたのだろうか。レースで隣が後ろに見えなくなった一瞬、どこか自分の中で諦めてしまっていたのではないだろうか。そう思って考えてみるとたしかに僕はただあせるだけで楽しむ気持ちを忘れてしまっていたように思う。なにか理由を見つけて言い訳を探していたのだったと思う。そういう自分がいる。なんか格好悪い。

 だが、そんな僕にも仲間がいる。互いに切磋琢磨する仲間は、最高に頼もしい。一糸乱れぬ動きはまさに究極のチームスポーツ、ボートならではだと思う。仲間がいて、学校の近くには湖があって練習できる。これ以上ないような環境がそろっている。もう言い訳しない。自分から逃げない。最初は一人では無理かもしれない。だが、仲間と一緒なら乗り越えられる。そんな気がする。

 一流の選手だってはじめから強いわけではない。だからこそ、僕も強くなれる。そう思う。僕はボート競技で世界一になりたい。自分と向き合うことができるボートで。仲間との絆ができたボートで。スポーツはもっと奥が深いはずだ。自分の知らないスポーツの奥深さを知りたい。そしてスポーツの魅力を伝えられる仕事がしたい。夢に向かって、僕はまた漕ぐ。


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