山形県立置賜農業高等学校 3年

千 葉  嶺 光
 

森を守る
 
 皆さんは、「森は海の恋人」というNPO法人を知っていますか。昭和40年代、カキやホタテなどの海産物が豊富に取れる三陸海岸に赤潮が大量発生し、漁場は荒れました。その時、一人の漁師、畠山重篤さんが「豊かな海を取り戻すためには、上流の森を守ることが大切だ」と海と山をつなぐ団体を結成したのです。

 私が畠山さんの存在を知ったのは、高校で森林の学習をしてからのことです。森にはいくつもの多面的機能があり、落ち葉などの有機物が微生物によって分解され、養分として流れ出る物質生産機能。その微生物が昆虫や小動物、そして大動物の餌になっていくという生態系の維持や生物多様性機能。樹木が炭酸ガスを酸素に置き換えるなどの地球環境保全機能。そして、土砂災害を防止し水源を保持する機能など、多くの機能を持っています。

 特に私が注目した機能が二つあります。一つは、物質生産機能です。陸地の川から海に送り込まれるプランクトンや鉄分、さらにマグネシウムなどは、海産物を育む豊かな海にとっては欠かせません。以前畠山さんが述べた「よいカキかどうかは、上流の森を見ればわかる。」という言葉を思い出しました。森はその先の海にまでつながっており、豊かな海のためには豊かな森が必要なのです。

 そしてもう一つ注目したのは、土砂災害を防止し水源を保持する機能です。私は高校で学習するまで、山形の森林がだんだん荒廃しているという事実を知りませんでした。農業ではよく「高齢化」が問題として言われてきましたが、それは林業でも同じです。人手不足のために、手入れが進まない人工林が増えていくとどうなるか。それは、下草や低木が育たないために、土壌流出の危険が高くなるということです。

 そのような時、課題研究で川西町の伝統料理でもあるむくり鮒を継承するプロジェクトを知りました。私は、鮒を育てるという視点から、里山の保全や生態系の維持について取り組むこの研究を選択しました。むくり鮒は、200年以上も昔に、上杉鷹山公が藩の産業振興と冬場のたんぱく源を目的として始めたものです。このむくり鮒という食文化や鮒の養殖を現在も行っているのが、川西町の玉庭地区です。しかし、この玉庭地区も高齢化が進み、耕作放棄地が増え続けています。そしてそれは、むくり鮒の継承を危機に追い込んでいることを知りました。

 そこで私たちは、三つの取り組みを開始しました。一つ目は、森から流れ出る水資源を活用した鮒の養殖です。鮒の養殖は、非常に難しい技術でした。親鮒の産卵や孵化、餌付けは困難の連続で、数千尾の稚魚が10分の1も育たないという失敗も経験しました。しかし、魚の排せつ物をプランクトンが餌として消費し、水生植物が余分なリンを吸収するという、水質浄化のメカニズムや生物多様性の学びは、とても有意義なものとなりました。二つ目は、森を守る活動です。森林科学の学習で、玉庭地区にある学校林の整備を行いながら、里山の陽樹林といわれる森の整備に取り組みました。余分な木を伐採する間伐や雑草の下刈は、森林の保護には欠かせない作業です。一年生の時に覚えた刈り払い機などを使って、里山の森を守っています。三つ目は、ビオトープの造成です。私たちは、校内の耕作放棄地にビオトープを造成し、鮒の養殖と水生生物の生態系の学習に利用する取り組みを進めています。

 私は、以上の学習を通して、「森は海の恋人」という畠山さんの取り組みの大切さを理解しました。しかし、人手不足は森を守ることの難しさに拍車をかけています。その解決に向け、私は里山保全を鮒の養殖とともに進めながら、森を守るネットワークづくりに邁進します。森を守ることは海を守り、ひいては地球を守ることにつながると信じて活動を続けていきます。


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