湘南白百合学園高等学校 3年

阿 部  ち ひ ろ
 

二重らせんに魅せられて
 
 夏になると、教室に響く悲鳴がより頻繁に聞こえるようになる。というのは、私の通う高校は豊かな自然に囲まれ、そのおかげで生き物が身近に存在し、よく虫たちが教室に現れるのだ。こんな時、周りが叫び声を上げたり、一目散に逃げたりする中、近づいて観察しようとする私などにはしばし怪しい物を見るような視線が注がれる。

 私の昆虫好きは、幼い頃から変わっていない。物心ついた頃から私の遊びといえば専ら外で昆虫と触れ合ったり、じーっと植物を観察することだった。小学生になると、蝶を育てるために植物を栽培し、卵から蝶の成長を見守ったり、家族とセミの羽化を深夜まで観察した。ところで、セミは何年もの間幼虫として地中で木の根から得る栄養を蓄え、地上に出てからは約一週間あまりしか生きられないことが分かっている。成虫としての本当に短い命を、必死に羽を震わせて鳴き、子孫を残すために尽くすのだ。私は自由研究で、2年間セミの生態や繁殖行動を調べ、この事実を知った時、昆虫の生命力に感動し、その命がけの旅に出るためにすっかり姿を変える羽化の瞬間をより特別なものに感じた。

 また、テレビ番組で、動物たちの命のドラマをずっと見続けていて、特に好きな回の放送は録画を何度も、アナウンサーのナレーションを覚えるまで繰り返し観た。その一つが、シャチについての放送回だ。小学校低学年の頃に観ていたが、今でも内容を覚えている。その番組でもやはり得られた感情は「生命ってすごい」という思いだ。シャチは、糧となるアシカの乱獲によって一時は個体数が激減したが、命がけで浜辺に乗り上げる狩りを編み出したり、一糸乱れぬチームプレーで獲物を追い込むなど、種の存続のためにあらゆる知恵を絞り、命をつないできたそうだ。

 前に記したもの以外にも多様な生命の神秘を見たり感じたりしてきた経験から、私は生命の仕組みに興味を持つようになった。

 小学校高学年になり、全ての生体の基本単位は細胞であり、その中に私たちの身体を作る上での設計図となる遺伝子が含まれていることを知った。今まで見てきた、親から子へ、という命のバトンの全てが、目に見えないこんなに小さな構造に凝縮されて継がれていく事実に感動し、遺伝子の世界に魅了された。この時私は初めて将来やりたいことを見つけた。幼少期から没頭してきた生物の源となる世界をもっと知りたい、と。

 少し漠然とした夢を持ちながら過ごしていた時、大村智先生のノーベル生理学医学賞のニュースで、先生が趣味であるゴルフのフィールドの土から採取した微生物から薬を開発されたと知り、医学に興味を持つようになった。大好きな分野を研究することで誰かの役に立てる人になりたいと憧れたからだ。

 調べるうちに、遺伝子は医学的に大きな可能性を秘めていて、今まで不可能だと考えられてきた身体に関する情報を制御する研究などが実際に進んでいることを知り、ますます興味を持つようになった。

 そして今、将来は、医学と密接な関わりを持つ遺伝子の研究に携わりたいと考えている。新型コロナウイルス蔓延により、医学研究の大切さに改めて気づかされる機会が増え、決意は固くなった。

 純粋な幼少期の昆虫好きから、たくさんのものに出会い、医学研究者を目指したいと思うようになるまで、ずっと持ち続けてきた興味や熱意を、将来夢を叶えることができたら、全力で研究に注ぎたい。そして、私をこの夢に導いてくれた昆虫や植物に感謝し、いつまでも大切にしていきたい。


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