湘南白百合学園高等学校 2年

小 林  咲 葵
 

みんなが生きやすい社会を目指して
 
 「悩みはありますか?」

 この問いに、数年前までの私は迷わずに「ありません。」と答えていた。ちょっとした心配事くらいはあっても、深刻に思い悩んだことはなく、周りの誰かが悩みを抱えているかもしれないと想像してみることも特になかった。そんな私は今、将来は公認心理師になりたいと思っている。悩みと無縁だった私が心と向き合う職を目指そうと思うようになったきっかけは、悩むということを知ったことである。

 一昨年の春、私は6年間続けていた競泳を辞め、さらに新型コロナウイルスの影響で学校に行けなくなり、生活が大きく変化した。今まで毎日のように話していた学校の友達や一緒に泳いでいた仲間と会うことがなくなり、段々自分だけが取り残されているような気持ちになった。オンライン授業で思うように学習が進められなかったこともあり、このままでは成績も下がってしまうのではないか、でもどうすればよいのかわからない、といった不安や焦りが募っていった。二学期になり対面授業が再開したが、自分だけが元の学校生活や学習習慣に戻ることができていない気がして、友達と話すのも辛くなり、学校に行きたくないとまで思うようになってしまった。元の生活に戻ることを望んでいたはずなのに、元の生活に戻ることが怖くなってしまっている自分がいる。悩みはないと即答していた自分からは想像もできないことだった。幸い、私は少しずつ調子を取り戻し、また学校生活を楽しめるようになった。しかし、元の自分に戻ったわけではない。心の不調は誰にでも予期せず起こることなのだと身をもって知ったことで、私は「心」というものに興味を持つようになつた。

 今も目の前のことで悩んだり、自分の将来に漠然とした不安を感じることもある。そんな時私は、母、友人、そして月に二回学校に来てくださっているカウンセラーの方に相談することができる。しかし、世の中には相談できる相手がいなくて、一人で抱え込んでしまう人も沢山いるのではないかと思う。特に日本では、カウンセリングを受けるのは鬱病の人であるというイメージが強く、心療内科や精神科といった病院に行くことをためらう人が多いと思う。アメリカでは42パーセントの人が心理カウンセリングを利用しているのに対し、日本は6パーセントの人しか利用していないそうだ。アメリカの自殺率が日本よりも低いのは、気軽に相談できる環境があることが影響していると思う。

 傷つける相手が自分ではないこともあるだろう。2022年7月、世界一安全な国と言われる日本で元総理大臣が銃殺されるという衝撃的な事件が起こった。犯人は宗教団体への恨みから犯行に至ったことが強調されている。一方で、様々な資格を取っても正社員になることができなかったという経歴などから、努力をしても報われなかったことで社会に恨みを持ったことも動機に関係しているのではないかと考えられている。犯人は近隣の人の挨拶に答えることもなく、本当に一人ぼっちだったそうだ。私は、誰かにその苦しさを話したり相談したりできていたらこんな事件は起きなかったのではないかと思う。

 私の夢は、このような悲しい事件が少しでも減るように、そして一人ぼっちで思い悩む人がいなくなるように、誰もが気軽に相談したりカウンセリングを受けることができる環境作りに貢献することだ。子供も大人も、みんなが生きやすい社会にしたい。それはきっと平和にも繋がるはずだ。

 夢を実現させるために、高校生である今は心理学を学べる大学への進学を目指して勉学に励む。大学、そして大学院で心理学を学び、将来は公認心理師として、みんなが生きやすい社会を目指して、日々努力を続けようと思う。


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