湘南白百合学園高等学校 2年

冨 木  美 花
 

人生の先輩
 
 私には、明確な将来の夢がない。小さかった頃は、簡単に答えられていたものが、成長していくうちに、段々と曖昧な回答でその場しのぎをするようになった。将来について、何も考えていない訳ではないのだが、自分の仕事や進路をいつになったら見つけることができるのだろうか、という不安が突如襲ってきたり、大人から進路の話を持ち込まれる度に、はっきりと答えられない自分に不甲斐なさを感じる。私は、自分の「仕事」は決まっていないものの、私の進む道を見つけるきっかけにもなった、尊敬する「職業人」がいる。それは、私の姉だ。

 私と姉は、10歳離れている。小さい頃から、毎日世話をしてくれて、第二の母親のような存在だ。彼女は、昔から何事にも真面日で、全力で、頼まれたら断れない性格だが、器用に全てをこなし、自分の目標を確実にクリアしていく。

 直感的で、感情的に進む私は、正反対の姉のようになりたいと思う部分も多くあり、目標としてきた。そんな私のお手本である姉は、祖父の介護を通して、「自分の手で命を救いたい」という思いから、医師になることを決め、現在は研修医として働いている。ある程度の覚悟を持って仕事を始めたものの、コロナ禍ということもあり、医療現場は非常に重労働であると語っていた。週6連勤に加え、オンコールや外勤、緊急患者や手術が入れば、帰宅の時間は23時をすぎることもあり、また夜勤時は、ひっきりなしに来る患者の対応に追われ、ほとんど睡眠も取れず、徹夜状態で朝を迎える。医療現場には労働基準法なんて存在しないのだ、と苦笑していた。

 労働時間の問題だけではない。医師は患者と向き合い、命に関わる仕事であるからこそ、一時たりとも気は抜けない。そのため、数少ない休日に実家に帰ってくる姉はいつも疲労困憊である。重労働で、自分が休む時間もほとんど取れないにも関わらず、姉は「やめたい」とは言わない。それは、自分の仕事にやりがいを感じているからだという。患者が似顔絵をプレゼントしてくれた時、久しぶりに会ったのに覚えていてくれた時、自分の持っている知識が役に立った時、自分の診断が正確だった時。嬉しそうに家族に話す姉の姿は、生き生きとしていて、自分の仕事に誇りを持っているように感じられる。

 今まで、仕事や将来を決める要素をよく理解していなかったが、姉から「やりがいや誇りを持てる」ということが重要なのだと学んだ。そして、改めて自分と向き合うと、国際関係に興味がある、という新たな一面に気づくことが出来た。私は、最近、オンライン上で海外の同世代の高校生と、現代の社会問題について、英語を使って話し合う、というイベントに参加している。文化の違いや住んでいる国によって問題への捉え方は様々であり、彼らの独創的な発想やアイデアは、非常に興味深く、多くのインスピレーションを受けることができる。また、自分の知らなかったことを知る機会でもあり、行動するきっかけにもなっている。10年以上学び続けてきた英語というツールを使って、自分の世界を広げ、意見交換をしている時が、特に自分が生き生きとしていて、やりがいのある瞬間であると感じ、私の進むべき道を見つけられた。具体的な職種までは決まっていないが、何も手つかずだった私にとっては大きな一歩である。いつか行きたい大学や就きたい職業が決まったときのために、学業に励むモチベーションに繋がっただけでなく、今の自分と向き合い、一つ一つ未来の自分を探すことが、今やるべきことだと再認識することが出来た。

 奮闘する姿を通して、私に未来の進み方を示してくれた姉には、感謝しかない。業種は違えど、私も姉のように、やりがいと誇りを持てる仕事を見つけて、世界で活躍できる大人になりたいと心から思った。そして、これから先も、壁にぶつかった時は、人生の先輩である姉を見習って、自分の道を歩んでいきたい。


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